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国土交通省「i-Construction」最前線

i-Constructionのさらなる展開を目指して

――令和という新しい時代を迎え、i-Constructionも新たな展開を開始しているかと思います。具体的な取り組みについてお聞かせください。

東川 新型コロナウイルス感染症対策を契機とした非接触・リモート型の働き方への転換と抜本的な生産性や安全性向上を図るため、5G等基幹テクノロジーを活用したインフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)を強力に推進したいと考えています。

 新型コロナウイルスが蔓延する状況下でも、いわゆる3密を避け現場の機能を確保するため、映像データを活用した監督検査など、対面主義にとらわれない建設現場の新たな働き方に取り組みます。また、さらなる現場の生産性や安全性向上のため、5Gなどを活用した新技術の現場実証に取り組みます。例えば、災害復旧工事などの防災の現場において、人が近づけない箇所でも安全に施工するために、日本独自の技術として、無人化施工技術の開発に94年から継続して取り組んできたところですが、現状のWi-Fiを使った無人化施工では、通信容量の不足、通信の遅延、同時接続機器数の制限などにより視認性・操作性などに課題があります。そこで、今後、大容量・低遅延・多数同時接続の特性をもつ5Gを活用することで、これらは解決すると考えていますし、今年度から、民間からの公募による無人化施工の現場試行の取り組みを進めてます。

 また近年、自然災害が激甚化・頻発化していますが、河川氾濫の浸水状況をリアルタイムで把握する技術などを募集し、そうしてできた新技術をi-Construction に組み入れるといった施策も進めていきたいと考えています。

――災害復旧工事などにおけるi-Constructionを活用した無人工法については、二次災害を防止するといった点からも非常に有用だと考えますが、既に実施された例はあるのでしょうか。

東川 具体的な活用例の一つとして、2016年に発生した熊本地震での復旧工事があります。熊本地震では、阿蘇郡南阿蘇村立野地区で大規模な斜面崩落が発生しましたが、この復旧工事において余震や降雨に伴う土砂崩壊といった二次災害を防ぐために無人化機械による施工が行われました。無人といっても遠隔地からのリモート操作によるものでしたが、実際にそうした作業・工事が既に行われています。しかし、無人化機械による施工については、現時点でリモート操作と実際の機械の動作に時差が発生してしまうという難点があります。この点については先述した5Gの大容量・低遅延・多数同時接続といった特性があれば解決できると思いますので、準備や環境が整えば今年度中にも5Gを実装した実証実験を行いたいと考えています。

i-Constructionの推進に向けて

――i-Constructionの推進には官民の連携が重要だと伺っています。i-Constructionを全国に広めていくための施策について、そして先進的な事業に取り組んでいる企業の取組事例についてお聞かせください。

東川 国の直轄事業よりも、地方公共団体の事業の方が多く、それを実際に施工しているのは地元の建設会社です。中小企業においては、ICT施工を経験した企業は、受注企業全体の半分以下となっており、今後こうした中小規模の企業への浸透が必要です。そのため国土交通省では、土工において、現場の使用実態に合わせたICT建機の経費を計上できるよう積算基準を見直すとともに、小規模施工の区分を新設するなど、中小企業にもi-Constructionに取り組んでいただける環境を作っています。また今年度からは、起工測量から成果品の電子納品までのすべての施工プロセスでICT活用を必須としていた従来に加え、部分的な活用であっても経費の計上や工事成績での加点を行う「簡易型ICT活用工事」を全国で実施するとともに、ICT施工の専門家を育成するための支援などを行っていきます。

 一方、中小企業でもi-Constructionに積極的に取り組んでいる企業があるのも事実です。ICT施工の導入によって、中小規模の事業においても生産性向上の効果があり、現場が安全にもなる、つまり魅力ある仕事になっていくわけです。そうした企業では独創的な工夫もされていて、われわれとしてもそれを吸収し、広めていきたいと考えており、トップランナーとしてi-Constructionに積極的に実施している中小企業の方々の意見をしっかり伺う場を設ける取り組みもしています。

 さらに、先進的な取り組みを行っている地方公共団体や民間企業などを表彰するi-Construction大賞を開催し、好事例の横展開を図っています。2019年度は、地方公共団体などの取り組みを対象に追加しました。地方公共団体などの取組部門では、ICT活用工事の推進とあわせて、3次元点群データの収集・利活用を積極的に進めている「ふじのくにi-Construction推進支援協議会(静岡県)」を大臣賞と して表彰しました。こうした普及促進の取り組みを通じて、i-Constructionの裾野拡大に取り組んでいきます。

――i-Constructionの推進も5年目となり、その概念や施策も一定の認知は得たものと思います。プロジェクト目標には「2025年度までに建設現場の生産性の2割向上」を掲げていますが、最後に目標達成に向けた意気込み、思いについてお聞かせください。

東川 生産性革命、i-Constructionを通じて達成したいのは、建設現場をより魅力的な職場にすることです。いわゆる 3Kと言われていた現場を、「給料(がよく)・休日(がとれ)・希望(のもてる)」の「新3K」に変えていかなければなりません。現場の仕事も一人一人がより高度な業務をすることになり、高付加価値の仕事になることで給料の向上にもつなげていきたいので、目標達成に向けて、i-Constructionの取り組みをさらに加速化的に発展させていきたいと考えています。

 また目標達成に向けては、われわれ発注者や受注者、そして関連産業の方々の技術や知恵をこれまでと同じように活用するのではなく、少し大げさかもしれませんが、常識を覆すような新しい発想をもって実施していかなければ困難だとも思っています。その点については関係者の方々にこれからも引き続き訴えつつ、プロジェクト目標年まで折り返しとなったi-Constructionを鋭意進めていきたいと思っています。

――新しい技術などにより着実な進みをみせるi-Construction。今後の取り組みに期待しています。本日はありがとうございました。

東川 直正(とがわ なおまさ)
昭和39年4月生まれ、大阪府出身。京都大学大学院土木工学科修了。平成元年建設省入省(九州地方建設局北九州国道工事事務所調査課)、15年国土交通省近畿地方整備局京都国道事務所所長、17年奈良県道路建設課長、20年国土交通省関東地方整備局道路部道路企画官、21年総合政策局総務課建設副産物企画官、23年国土政策局広域地方政策課調整室長、25年京都府建設交通部長、28年国土交通省近畿地方整備局道路部長、29年関東地方整備局企画部長、30年道路局国道・技術課長を経て、令和元年7月より現職。