「災害大国」と呼ばれるほど、多くの災害に見舞われるわが国。なかでも2018年は土砂災害発生件数3459件と過去最多の発生件数を記録している。また翌19年に発生した「令和元年台風第19号」においても台風としては過去最大となる952件(土石流等:407件、地すべり:44件、がけ崩れ:501件)の土砂災害が発生している。このように近年、激甚化・頻発化、そして同時多発化する自然災害に対して土砂災害などから住民の生命と財産、及び地域の暮らしを守る砂防政策の現状について、国土交通省水管理・国土保全局砂防部の今井部長に話を聞いた。
――わが国は「災害大国」と呼ばれるほど多くの自然災害に見舞われています。こと近年は激甚化・頻発化する災害に対して防災意識も高まっていますが、改めて土砂災害に対する備えとしての砂防、その役割や災害との関わりについてお聞かせください。
今井 砂防とは、土砂災害を防止するための手段を指します。すなわち、土石流などを防ぐために荒廃した渓流や扇状地上端に砂防堰堤や遊砂地を設置することに始まり、斜面崩壊や地すべり対策工事、雪崩対策そして火山災害の防止対策などを総称したものになります。しかし、これだけでは理解しにくいと思いますので、昨年(2019年)に発生した台風第19号などの災害とあわせて、砂防の役割やその効果についてお話したいと思います。
台風第19号については、テレビなどで河川の氾濫が大きなニュースになっていましたが、土砂災害についても台風としては過去最大の952件の災害が発生しています。また年間を通した土砂災害発生件数は1995件と18年に引き続いて年間の平均件数を超える多くの土砂災害が発生したことになります。気候変動の影響が懸念されていますが、激甚化・頻発化する土砂災害への対応は今後の大きな課題といえるでしょう。
一方、これまで多くの時間と費用をかけて国直轄で砂防事業を推進してきた天竜川(長野県伊那谷)、狩野川(静岡県)、そして富士川(山梨県)流域では、台風第19号に伴う豪雨に対して、土砂災害による被害をほぼゼロに抑えることができたことから、砂防事業・政策としては一定の効果をあげられたものと考えています。
――具体的にはどういった砂防事業・政策があり、その効果はどういったものだったのでしょうか。
今井 天竜川流域についてですが、天竜川では1961年の大雨による災害(昭和36年梅雨前線豪雨:三六災害)により136名の方が亡くなりました。災害発生から60年余り、当初は6基だった砂防堰堤を73基まで増設したことで三六災害時と比べて1・3倍もの降雨量に達したにもかかわらず、台風第19号による被害は皆無であり、天竜川流域に集積する約870億円の資産に対して大幅に被害を軽減できたと推測されます。
また、狩野川流域では、58年の狩野川台風によって、死者・行方不明者853名、家屋浸水6775戸という甚大な被害が発生しました。しかし、狩野川台風の襲来以前から着工し、65年に完成した「狩野川放水路」をはじめ、狩野川台風を契機に整備された129基の砂防施設により上流からの大量の土砂流入を抑制するとともに、本川からの氾濫を抑制することで人的被害はゼロに、また、家屋への浸水被害も約1300戸に抑制することができました。
そして、富士川流域では、59年の台風によって多数の死者・行方不明者を出しましたが、管内全体で砂防堰堤や床固工を含めた約700基の砂防施設を整備したことで、当時の1・7倍の雨量が観測された台風第19号でも被害はなかったという報告を受けています。
――災害を契機に整備された砂防施設によって、激甚化する災害に対して人的・物的被害をほぼ皆無にできたというのは素晴らしいですね。
今井 もちろん被害が少なかった点は喜ばしいことですが、上流域においては、流域が荒廃したり、次の出水時に大量の土砂流出が発生する可能性に備える必要もあります。このような対策の必要性の高い流域においては直轄事業として対応するべきと考えています。
このように、最近は直轄事業をはじめ各自治体がこれまで積み重ねてきたハード対策の効果が目に見える形で表れてきたと感じています。長い時間を必要とするのが砂防事業・政策の特徴ですが、これからも腰を据えてしっかり取り組んでいく必要があると思っています。
――防災効果を発揮するまである程度の時間を必要とするというのは、防災事業・政策において難しいテーマかもしれませんね。ではそれ以外の砂防政策についてお聞かせください。
今井 土砂災害対策は……(続きはログイン後)