お問い合わせはこちら

国土交通省地域交通政策最前線

地域公共交通政策の方向性と課題について

国土交通省総合政策局地域交通課長   原田修吾氏
国土交通省総合政策局地域交通課長 原田修吾氏

この原稿は、2020年5月28日に日本計画研究所(JPI)で行われた講演をベースにしております。

厳しさを増す公共交通事業

 少子高齢化が進む現在、特に地方においては生活者の移動手段として電車やバスなど公共交通の存在がますます重要となっています。近年はさらに、高齢者が運転する自動車事故の発生によって免許の返納数が大幅に増加していることから、高齢者を中心に、公共交通が無くなると移動ができない、生活ができなくなるのでは、という懸念の声が大きくなっています。

 一方、公共交通事業をめぐる環境は厳しいものがあります。まず深刻化しているのが運転者不足です。端的に言えば、需要があっても十分な供給ができないということです。バスやタクシーは人件費比率がコストの約半分を占めるため、経営改善を行う場合にまず人件費から削っていく傾向がありました。その結果、自動車運転事業は全産業と比べ労働時間が長く、かつ人の命を預かるという点で精神的負荷が高いにもかかわらず年間所得額は低いということから若年層が就業を敬遠しがちな業種の一つとなっています。第二種大型自動運転免許保有者は15年間で約24%減少、有効求人倍率は全職業平均の約2倍、という状況です。また、乗合バス事業の経営自体も厳しく、事業収支は全体でも約5%の赤字構造、とくに地方部の赤字は約15%です。

 地方部においては近年、自治体が公共交通運営の主体となっているケースが多いのですが、本来、日本では長年にわたり民間事業者が中心となって交通サービスを担ってきたため、自治体内における人材、ノウハウ共に乏しく、公共交通専任の担当者を置いていない市町村は約8割にのぼります。特に人口が少ない市町村ほど専任担当者が少なく、そもそも担当組織が無いという場合もあります。一方で、地方バスや離島航路支援など地域交通確保に関する特別交付税の交付額は年々増加傾向にあり、ここ9年間でおよそ50%増、現在は年間700億円超となるなど自治体の負担も増加しています。今後は、各自治体が中心となって公共交通をどう支えていくか、ということが大きなテーマとなると考えられます。

 このような現状を踏まえた上で、今後の地域公共交通政策の方向性を見ていきたいと思います……(続きはログイン後)

資料提供:国土交通省
資料提供:国土交通省