2024/11/25
――その場合、いずれにしてもベースとなるのはマイナンバーカードの利活用かと思います。
阿部 マイナンバーカードは9000万枚超の保有数に達しましたので、これからは生活場面で使えるシーンをより増やすべきだと考えています。マイナンバーカードという名前なので、このカードを使うときには、必ずマイナンバーを使っていると誤解されている方も多いと思いますが、実際には、民間も含めてより広範に使用可能で、高い精度を持った本人認証の手段である「公的個人認証」という、マイナンバーを含まない電子証明書を使うことが多くなっています。実は、日本のように1億人を超える人口規模で、かつ、住民基本台帳という確実な本人認証基盤に紐付いた電子証明書による本人認証が、これほど普及している国は他にありません。わが国のマイナンバーカードの利活用の進展状況は各国からも注目を集めています。本人認証がこれだけの人口規模で、オンラインでもオフラインでも、これほど確実かつ簡易にできること、その重要性、希少性をさらにご理解いただければ大変ありがたいと思います。
この公的個人認証という強力な本人認証手段があればこそ、例えば、給付金などもオンラインの申請を受け付け、給付対象か否かや給付額を判定して、口座を教えてもらっておけばそこに給付金を振り込む、この一連の流れを窓口に出向いていただかなくても完結できますし、仮に窓口に行っていただいた場合でも、カードをリーダーにかざすだけで本人認証が済むわけです。
また、マイナンバーカードの機能のスマホ搭載について言うと、既に、スマホの一部端末に公的個人認証の電子証明書が搭載できるようになっていますが、最新の構想ではマイナンバーを含めた券面記載事項の確認もスマホだけでできるような準備も進められています。それが実現するとカードは家に保管したままでスマホがあれば大丈夫、ということになります。既に、マイナンバーカードを健康保険証として使うことができるようになっていますが、これも公的個人認証による本人認証機能を活用しているものです。窓口に来た人がこの人だと分ればこそ、どこの健康保険に加入しているか分るということですので、同様に、この人だと分れば診察券の代わりにもなるはずで、いずれは、スマホさえあれば、通院先ごとに発券される診察券も不要となるかもしれません。医療機関側としても診察券の発券・更新等の管理コストが発生しなくなるというメリットがあります。
――確かに、公共を中心にデジタル化が確立されれば、周縁のサービスも連動して利便性向上が図られることになりますね。
阿部 カードの普及が一定水準に達したからこそ、次は日常生活でいかに使える場面を増やすかが問われるところです。そして一つの手続きに関して最初から最後までデジタルで一気通貫に完結させる、途中にアナログな部分や箇所が残っていては効率性・円滑性を損ないますので、人間の頭で判断すべき事や人間でしかできないチェックなどは、もちろん一定程度あるとは思いますが、受付はもちろんのこと、事務処理も含めて全てが機械的に済ませられることが一つの理想です。住民側から見ても、受付を済ませたら、あっという間に結果が帰ってくる、というように利便性が高まると、マイナンバーやマイナンバーカードに対する理解や不安払しょくもさらに進むと期待されます。
現在、省内でも、人口規模別の自治体をモデルに、デジタル技術を活用したフロントヤード改革の実証事業に取り組んでいますが、その実証の中でも、できるだけ、バックヤードも含めた一気通貫で手続等が完結できる事例を作るという問題意識で取り組んでおり、そういった事例を、しっかり横展開していきたいと思っています。
相互補完関係の構築がカギ
――今回の法改正により、国と地方の役割が従前と比べて変化する可能性などについてはいかがでしょう。
阿部 マイナンバーや住民基本台帳など現場主体の仕事に長く携わってきたという個人的な経験から申しますと、一層人口減少が進行する中で、国と地方の役割を実務の視点から捉えた場合、やはり相互補完関係をうまく構築していかないと現実に仕事が回らないような状況になり始めているのではないかと強く感じます。なので、個人的には、国と地方の役割について、制度面から何らかの新たな整理なり手当をするにしても、実務の実態をさらに一層見定めた上で考えるべきで、制度面からの理想論的なアプローチだけで進めていくと、実態との乖離が生じ、現場の状況とそぐわなくなるリスクがあるかと思います。
特にIT分野においては、国が良かれと思って、一方的に何らかのシステムを作って地方に展開しても、実務の現場では機能不全を起こす可能性があります。確かに、当該システムで行う事務が、自治体で一から始めることとなったものであれば、事務経験の蓄積がない分、このような手法は効果的だと思います。一方で、前述した〝20業務〟のように、既に生の個人情報を扱って現実に動いているような事務の場合、さまざまな事務経験を積み重ねる中で、より確実・円滑に事務を行うため、各団体の事務のやり方に合う形で、システムにさまざまに手を入れていることも多いため、一方的に展開されたシステムでは事務が回らないということが起こり得ます。このため〝20業務〟の標準化においては、各分野一つ一つについてチームを設け、望ましい仕様書の在り方などを現場の声を聞きながら収斂させていく、それで終わりではなくさらにバージョンアップを重ねていく、という非常に丁寧なプロセスを取っています。それでも、先に述べたように一定のBPRは避けられないので従来のシステムを使ってきた人にとっては使い勝手の悪さは残ります。しかし、統一したシステムに収斂させていくには、個々の不満について一定の妥協をしてもらうことも求められます。
理念先行で国と地方の役割を見直そうとしても、なかなか簡単に関係者一同ハッピーとはならないのではないかと思います。やはり、国・地方間でさまざまなやりとりを行いながら、また、そこでの成果や失敗に学びながら、実務を十分に踏まえた役割の最適解を整理する必要があろうかと思います。
この役割の在り方に関連して、私個人は、人という観点から、アプローチする必要があるのではないかと、最近特に強く感じています。
――つまり人材のありようですね。
阿部 人口減が進み、特に地方部において、公務員の雇用に難儀している、専門分野の職員が確保できない、といった自治体が既に出始めているようです。国としても、都道府県に人材のプールを作り、そこから市町村に人材の派遣をするといった対応なども支援していますが、将来は、採用・任用方法等制度的な対応も含めて、本格的な検討を要する事態になるのかもしれません。
20業務の標準化のお話をしましたが、よく言われる「一人情シス」のように担当者一人の方で、システム周りのことをすべてこなしている自治体があります。さらに言えば、その人が役場の別の仕事も兼務していることもあります。こういった人材逼迫に対応する意味でも、将来的には、システム調達等これまで各自治体で行ってきたものを国が行い、地方はそれを利用するという方向に進むのではないかとも思います。そこまで行くと、国がどこまでやり、地方がどこまでやるかが自ずと変わっていくことになります。現実のニーズに応じて制度や方策を改めていくと、結果的に役割が変わっていくことになるのだろうと。
また役割の変化に応じて、責任も変わりますから、例えば、今述べたシステム調達を考えても、経費は、どういう形で誰が持つのか、インシデントが発生した時は、誰がどこまで責任を負うのか等を明確にしていく必要があります。現時点でも、20業務の標準化後のシステムについては、国が用意するガバメントクラウドに移行していくことが努力義務となっていますが、移行を進めていく際には、地方の実務や制度等も十分に踏まえた上で、責任分界についても明確にしていくことが不可欠だと思います。
統一的セキュリティ確保が課題
――どのような分野であれ一つのシステムを関係者の協議の下、標準化を図るというのは、極めて民主主義的プロセスですね。
阿部 そうなのです。とても民主的なプロセスで進めており、その分、大変な作業になっています。時間もかかりますし、議論の集約は一筋縄ではありません。しかし、その過程を通じて得られた標準化・共通化への知見は今後の国と地方の連携において、決して無駄にはならないと信じています。
――最後に、局長から誌面を通じメッセージなどございましたら。
阿部 冒頭で申し上げましたが、改正地方自治法で設けられた国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例につきましては、各地方自治体の担当者の皆さま等に対し、不安を払しょくできるよう丁寧な説明と情報提供を行っていく所存ですので、ぜひご理解のほど、よろしくお願いします。
また、自治体間や国と地方の間でのシステム連携が進んでくると、それに伴い、統一的なセキュリティの確保が大きな課題になってきます。ネットワークの一体性が高まると、一つの団体から、その団体につながる他の複数団体の情報が流出するといった事態も想定されます。その点は、各団体においても、そういった自覚を持って、セキュリティ対策等にしっかり取り組んでいただく必要があります。一方で、各団体で、最新のセキュリティに詳しい専門家を常時確保することは容易ではありません。現場の実情も踏まえながら、国として何ができるのか、何をすべきなのか、しっかり考えていく必要があると思っていますので、さまざまな機会を通じて、ぜひ、現場の声や現場からのアイデアを聞かせていただければと思います。
新たなシステムの導入にしろ、セキュリティの強化にしろ、BPRの要素を含みますし、現場の体制等を変えていただくこともあるかと思いますが、この点はぜひ、自治体の幹部の皆さまには、自治体経営の効率化やリスク管理のために必要なことであることをご理解いただき、体制の変更・確保や現場職員の皆さまへのサポートをしていただけると有難いですね。中長期的視点を持ちながら、国・地方が一緒になって取り組んでいかなければならない事柄だと思いますので、何卒、よろしくお願いいたします。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2024年10月号掲載)