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デジタル時代の非競争領域の再設計/経済産業省 須賀千鶴氏

三つのアーリーハーベストプロジェクト

 以下、前述した三つのアーリーハーベストプロジェクトについて、最新状況をお伝えしたいと思います。

 まずはドローン航路について。もともとドローンは、何処から何処へ飛ばすか、どういうルートで飛ばすか自由に設定できる、というのがセールスポイントでした。が、その自由さ故に、事業者ごとにそれぞれ個別の経路を設定して申請・通報しており、当然その経路は当該事業者のドローンしか飛行しないという設定になっています。社会利便性の向上を図るためには、ドローンにおいても高速道路のような、どの機体でも飛べる航路の設定が必要です。各社ドローンとも特定長距離間はこの航路を連続して飛び、その後の最終目的地までは自由に飛行する、というアプローチの方がより効率的だからです。

 上空にバーチャル高速道路のようなドローン航路を設定し、定点的にリアルな充電設備や緊急退避場を設ける、こうした計画をこれから進めていきます。送電網を擁する電力会社さんからの協力を得て、送電設備の点検を人からドローンへ代替していくために自社用に設定した航路を、社会インフラとして開放することにご理解をいただき、他の事業者のドローンが乗り入れられるよう必要な基盤も整備して、2024年度までに150キロメートルの航路を設定して利用を開始する計画になっています。将来的には、これら送電網等の既存インフラを活用して、地球一周4万キロメートルを超えるドローン航路を設定したいと思います。
 
 次は自動運転支援道の設定です。2024年度に、新東名高速道の一部区間において100キロメートルあまりの自動運転車用レーンを設定し、自動運転トラックの運航の実現を目指します。今はこのレーンを自動運転専用にすべきか、優先レーンでよいかなど、細部の設計を各省で検討しているところです。

 自動運転支援道においては、路側センサー等で検知した道路情報を自動運転車に提供するなどリアルタイムの走行支援を行います。自動車各社も、本音では自動運転なんてまだ遠い先の話だと思っていらしたところ、インフラ側でそれほど支援してくれるなら案外実現は早いかもしれない、として開発のギアを上げるとおっしゃっていただける事業者も出てきています。インフラ側の大きな一歩により、これから投入される車両も加速度的に増えていくのではないかと期待しています。また、サービスエリアや道の駅などにも今後はデジタル実装を施していくことになるでしょう。

 資料をご覧いただけるとわかるとおり、ドローンも自動運転も、実現するサービスは全く違うように見えますが、サービスを水面下で下支えする諸要素・要件は、実はかなり相似しています。通信インフラ然り、データ連携基盤然り、3Dマップ然り、物理空間を移動するロボットをデジタルで制御しようとする時に必要なインフラの構造はほぼ同じ。規格化されたインフラさえ効率的に構築できれば柔軟に応用発展できる、と考えてよいと思います。アウトプットの様態によって整備されるインフラ、ライフラインのスケールは異なりますが、極論すれば規模の大小に過ぎません。

 最後がインフラ管理のDX、地下埋設物のデジタルツインです。2024年度ごろ、関東地方の都市200平方キロメートルにおいて、地下の通信、電力、ガス、水道の管路に関する空間情報をデジタル化して、空間ID・空間情報基盤を介して相互に共有できることを目指します。私たちが生活している地下空間には、水道管やガス管など無数の埋設物がありますが、実際にどこにどう張り巡らされているのか、その全体像が把握されていません。そのため、例えば水道管が破裂した場合、他の事業者さんの管を破損しては大変ですから、紙の書類を頼りに周辺の配管の所在を確認しながら、アスファルトを剥がして以降はほぼ手堀りで補修箇所までたどり着いているのが実情です。どこにどのような管が走っているか誰でも瞬時に把握できて素早く補修できるよう、地下埋設物のデジタルツインを構築しようというのがインフラ管理のDXです。将来的には地下のカバー地域を拡大するとともに、地上や海上のデジタルツイン構築にも広げていきたいと考えています。これが構築されると、災害時のインフラ復旧なども今より効率が上がると期待しています。

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)

実現会議で各省認識を共有

 では、「デジタルライフライン全国総合整備計画」において、政府はどのような役割を果たしていくのか。これはいずれのプロジェクトに関しても、事業をする側の支援と、インフラをつくる側の支援に大別して考えたいと思います。

 まず事業支援について。今までは実証実験実施期間にセンサーやカメラなど必要な機器類の設置を支援しても、実証が終わると基本的にすべて撤去されていました。それに対しこれからはデジタルライフラインの計画に参加していただく事業に関しては実装を前提とする、つまり実施期間が終わっても機器はそのままで、サービスが商用化されるまで継続する方向です。それに伴いインフラ支援の側も、ハードとソフトを一体的に支援していきます。また、ドローンも車も、幾つもの自治体を線で移動するので、間の自治体で歯抜け的に実装が出来なければ計画全体が機能しなくなります。そのため、点ではなく線や面での実装につながるよう、複数施策による重点的支援による実装の加速化を図ります。

 この方針の下、ハード面ではヒト・モノの乗換・積替、モビリティの充電・駐車を行うハブとなる拠点を整備し、インフラの標準規格や推奨仕様を整備します。ソフト面では、3次元空間情報基盤や運航管理データ連携基盤等を構築し、各省庁の地理空間情報を扱うシステムとの円滑な連携を推進します。また、データ連携基盤の担い手には一定程度の公益性が求められることから、これを担保する仕組み、例えば公益認定デジタルプラットフォームの創設なども検討していくこととなります。

 そして今年度中にデジタルライフラインの推奨仕様等、諸要件について検討を進め、面的展開をしっかりやろうと考えている自治体さんと連携し、仮説の立案や検証を行います。

 この6月から、「デジタルライフライン全国総合整備計画の実現会議」が設置されました。関係8省庁から17部局の長が集い、民間からもデジタルライフラインの担い手候補の各社などからハイレベルで参画いただき、デジタルライフラインの10年がかりの整備を官民協働で強力に進めていくことが確認されました。2024年度から予定されている、先行地域での社会実装に向け、今後の議論とアクションの進展に大いに期待しています。
                                                (月刊『時評』2023年7月号掲載)

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