2024/05/24
経済産業省の九州地域7 県におけるブロック組織として、九州の経済産業施策に取り組む九州経済産業局。そのトップである後藤雄三局長(当時)に、コロナ禍からの反転攻勢に向け、DX・カーボンニュートラル・SDGsに関わるさまざまな施策について語ってもらった。
経済産業省九州経済産業局長
後藤 雄三
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――コロナ禍の影響で制約が多かった時期から、ようやく社会全体に明るい兆しが見えつつある昨今、まずは現在の九州経済の状況を教えていただけますか。
後藤 「九州経済の二大産業」と呼ばれるのが、半導体産業と自動車産業です。半導体は需要が旺盛ですが、自動車産業は2年前の春に大きく落ち込み、その後持ち直しが続いていたものの、このところの半導体不足でなかなか完成品が作れない状況です。最近ではウクライナ情勢や部品不足、上海のロックダウンの影響も徐々に受けていましたが、鉱工業生産指数(IIP)を見る限り、持ち直していますし、引き続きコロナ以前へと戻っていくと考えています。
今年の大型連休にはコロナに関する制限がほぼ解除されたため、宿泊・サービスも回復基調です。今年は博多どんたくも有田の陶器市も開催することができましたし、少しずつ個人消費が戻ってくる期待感があります。
一方、テレワークの普及などで会社員の方々が飲みに行かなくなるなどライフスタイルの変化がみられます。今後、特に飲食関係の消費の動向を注視する必要があると感じています。
――九州経済産業局としては、さまざまな支援施策を用意し、対応を図られてきたと思います。具体的な例を教えていただけますか。
後藤 支援施策については2年前の持続化給付金、家賃支援給付金に始まり、ゼロゼロ融資による企業への資金の浸透、そして最近では事業復活支援金などの支援策もあります。われわれも相談窓口を開設し幅広くご相談を受け付けるなど、企業に寄り添いながら対応を続けています。実際、コロナをビジネスチャンスに変える事業者も出始めています。
例えば、宮崎県の株式会社ワン・ステップさんは空気で膨らませる遊具のメーカーですが、コロナ禍を逆手に取り、空気で膨らませた後に陰圧をかけ、簡単に小規模なクリーンルームを実現できる製品を開発されました。その中で医療行為やワクチン接種なども行えるわけです。また、大分県の製鉄関連部品メーカーの株式会社トライテックさんはコロナ禍で売上が落ち込みましたが、医療機器分野に参入、内視鏡の特殊カバーを開発されるなど、新規事業に活路を見出されています。このようにコロナ禍を機に新規事業にチャレンジする企業が出てきており、事業再構築補助金の活用など、当局もきめ細やかにご相談に応じています。
他にも、最近ではポスト・コロナを見据えた中小企業活性化パッケージも始まり、中小企業の収益力改善や事業再生を促しています。
――台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に国内初の工場を建設し、2024年から製造を開始するのも明るいニュースですね。
後藤 TSMCの誘致は九州経済の起爆剤になると期待しています。このチャンスを生かすため、今年3月に「九州半導体人材育成等コンソーシアム」を立ち上げ、今後の人材育成やサプライチェーンの強靭化などを検討しています。もともと九州は「シリコンアイランド」と呼ばれていましたし、今でも約1000社の関連企業が集積しており基盤があります。当局もTSMCの案件だけでなく、さらに盛り上げるための動きを始動したところです。
――DXはいかがですか。
後藤 DXに関しては「九州地域DX推進コミュニティ」を立ち上げ、データサイエンティストと連携して人材育成を行っています。
――脱炭素化(カーボンニュートラル)については、九州の場合、地産地消型の再生可能エネルギーが思い浮かびます。
後藤 21年度に局内にカーボンニュートラルの推進チームを、この4月にカーボンニュートラル推進・エネルギー広報室を相次いで立ち上げました。
ご指摘の通り、国内でもっとも太陽光発電の導入が進んでいるのが九州です。それに洋上風力発電や地熱発電のポテンシャルも高いですね。加えて、水素エネルギーに関しては九州大学が世界最先端の研究を進めており、アドバンテージがあります。
ただ、大企業は以前からカーボンニュートラルに取り組んでおられますが、中堅・中小企業はまだ対応に手が回らず、なんらかのサポートが必要です。当局でもそのためのワンストップの相談窓口や伴走型の支援を行っていきます。中堅・中小企業の成功事例を発信できれば、その背中を追いかける企業が現れます。こうした好循環をどんどん広げていこうとしているところです。
――SDGsへの取り組みについてはいかがでしょうか。
後藤 この分野も近畿と九州が進んでおり、2020年2月に「九州SDGs 経営推進フォーラム」を立ち上げました。5月末時点で会員数は904者にのぼり、セミナーや交流事業を進めています。昨年は地域の有望中堅企業10社に集まっていただき、SDGs 経営実践研究会を行いました。また昨年9月には内閣府・近畿経産局・九州経産局が連携し、「全国SDGsプラットフォーム連絡協議会」を設立。今後も、前向きに取り組む企業を支援していく計画です。
SDGs17の目標のうち、特定の目標への対処にとどまるのではなく、社会における企業の存在価値とは何かを考え、足元の課題を踏まえつつ未来志向のもとに進めることが重要です。
――本当に多彩な取り組みをされていますね。
後藤 スタートアップに関しても、岸田首相が「今年はスタートアップ元年」と非常に力を入れておられますよね。当局も「Jスタートアップ九州」を立ち上げ、今年3月に33社を選定しました。支援機関も集まってくださっているので、一丸となって33社を育てていきたいですね(笑)。
――ちなみに、貴局のYouTubeでは「バーチャル職員 九州あおい」が活躍されていますね。
後藤 2年前に若手職員の提案で始めた九州初の官公庁バーチャル職員で、施策の紹介や採用活動に活用しています。コロナ禍で採用活動が制限される中、動画での情報発信などに活躍してくれました。
――バーチャルのキャラクターは学生への訴求効果が高いと思われます。
後藤 ちょっとワクワクするような取り組みが〝刺さり〟ますね。昨年度、われわれは改めてビジョン・ミッション・バリューを考え、「ワクワクする九州を創ろう」というキャッチフレーズを掲げました。今後もワクワク感を大事にしながら、いろんなチャレンジができる組織にしていきたいですね。
これは私自身のマネジメントの信念なのですが、職員にはつねづね「国家公務員は世界を幸せにする仕事」「職員自身が幸せでないと、いい政策は届けられない」と伝えています。今年4月には国の機関では初めて、局内にウェルビーイング推進本部を立ち上げました。当局には五つの部があるのですが、各部長にCHO(Chief HappinessOfficer)に就任してもらい、その下に「しあわせ係」を配置し、職員の幸福度向上のための取り組みを始めました。積極的にコミュニケーションを取り、少しずつ幸せを増やしていけるようにスモールステップで進めています。今後も職員一人一人のウェルビーイングを高めて、ワクワクする政策を実施していきたいと思います。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2022年7月号掲載)