2024/09/11
震災復興10年目のエネ基
今回の第6次エネルギー基本計画(以下、エネ基)では、議論に入る前提として第一章を「事故後10年の歩み」としています。東日本大震災と福島第一原子力発電所での事故後から、4次、5次と重ねてきた過去の改訂では各論の中で福島対応について記載してきましたが、震災後10年の月日が経過した2021年に改めて今後もしっかりと国が前面に立って福島復興を進めていくという決意を表明するためでした。エネルギー政策の全てが、福島への反省の上に立っています。
福島オンサイトでの対応についてはあらゆる方面で議論が継続中ですが、廃炉措置は41~51年までの終了を目指して着実に作業が進んでおり、風評対策徹底を前提としてALPS(多核種除去設備)処理水を2年後頃を目途に海洋放出する方針が今回のエネ基で明記されました。オフサイトで取り組むべきことも整理しています。帰還困難区域以外の大部分で実現されてきた避難指示解除を残りのエリアでも実現させるためには人々のなりわいとなる事業、ひいては産業全体の復興が必須です。
また、震災後から抱え続けてきたエネルギー需給構造自体の課題も引き続き解決していかねばなりません。これまでもわが国のエネルギー政策が目指す姿はS+3Eと呼ばれる「安全性」+「安定供給」「経済効率性」「環境適合」を原則としてきて、さまざまなエネルギーを組み合わせリスクを分散させていくエネルギーミックスの実現という方針は今後も不動です。
しかし今回は、その電源構成案を大きく見直しました。気候変動問題の取り扱いに大きな変化が生じたためです。120カ国以上がカーボンニュートラルを宣言し、脱炭素化は今や〝待ったなし〟。この情勢を踏まえて私たちも多くの議論を重ねてきました。温室効果ガス排出の8割はエネルギー分野に由来しますので、エネ基で定める目標数値は非常に重い役割を負っています。
中でも産業界を見れば、もはやグローバルサプライチェーンに組み込まれて競う中で、自国の政府が気候変動問題に積極性を欠いていると不利益につながりかねない状況に置かれています。政府がより積極的な解決姿勢へとかじを切ることでこの潮流を日本が成長するチャンスにしていきたいと、20年10月、菅義偉前首相によって、温室効果ガス排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを50 年までに目指すことが宣言されました。
カーボンニュートラル宣言の影響
18年に定めた第5次エネ基は、2030年に達成すべきエネルギーミックスを論じてから50年までに温室効果ガス排出量8割削減という、当時日本政府が掲げていた目標へ方向付ける構成でした。しかし上述のようにその後、脱炭素化への潮流が世界中で勢いを増したため、今回のエネ基ではまず50年のカーボンニュートラル実現へ向けた方針を示してから、その道筋として30 年までを野心的に見通すといった順序になっています。30年までの温室効果ガス削減目標は46%減となり、以前定めていた13年度比26%減から大幅に高められました。
さらに今回のエネ基で、発電に関して「再生可能エネルギー最優先の原則」が入ったことも大きなポイントです。30年の電源構成案で再生可能エネルギーが占める比率は36~38%と、こちらも第5次で22~24%としていた目標を大幅に引き上げていますが、各施策の強度や実施タイミングは安定供給を損なわぬよう慎重に決めていく必要があります。
過去のエネ基で掲げてきた各種目標数値は、蓋然性のある政策を積み上げた先にある、あるべき姿でしたが、今回の大胆な目標はむしろ、山積する課題を克服できた場合の見通しだと言えるでしょう。電化の進展と電力分野の脱炭素化が重要になりますが、いきなり全てを電化することは困難なので、各分野総出で施策を組み合わせていくしかありません。産業界はもちろん政府や自治体、消費者も含め需給両面に関係するあらゆるセクターがそれぞれどう知恵を絞るかが問われています。
高い再エネ目標を実現できるか
供給サイドの実態を鑑みると、再エネ目標の達成は決して容易ではありません。これまでに国内で設置された再エネ設備は相当量にのぼっており、既にいくつかの自治体では再エネ設備の設置に抑制的な条例を定め始めたほど。まず新たな適地をどう確保するかが高いハードルになりつつあります。
例えば洋上風力発電も当面はモノパイルと呼ばれる着床式のものが主力ですが、技術開発が進んでいけばいずれは浮体式にも大きな可能性を見込めるはずなので、技術的な課題をしっかり洗い出して一つずつ対応していきたいと思います。
各地域が再エネと共生していく社会に至るには、安全対策の強化やコスト低減も欠かせません。現状では、再エネのもつ〝高い変動性〟という側面に対し、火力発電で発電量を調整して需給バランスが崩れることを防いでいますが、今後再エネの大量導入が進む中で安定供給を維持するためには将来を見越した容量市場の適切な運用が不可欠です。
火力発電に対して、COPをはじめ国際的な議論で強い逆風が吹いていますが、実態として日本は現在全電力の75%程度を火力発電に頼っています。火力発電がもつ供給力、広い意味での調整力、これらがバックアップ的な要素込みの安心機能を果たしているからこそ今日の電力安定供給があります。今後、適切なポートフォリオを睨んで必要な電力を維持しつつ慎重に火力の電源構成比率を下げていくしかないでしょう。