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スマート農業推進政策最前線/農林水産省 齊賀 大昌氏

スマート農業推進に向けた取り組み

――まさに農業分野における革新ですね。しかしスマート農業を推進していくためには政府による施策とともに地方自治体や企業、そして農業従事者との連携も重要になってくるかと思います。スマート農業の推進に向けた施策、そして官民連携の取り組みについてお聞かせください。

齊賀 「スマート農業実証プロジェクト」を2019年から実施しています。本プロジェクトは、ロボット・AI・IoTなどの先端技術を活用したスマート農業技術を実際の生産現場に導入し、技術の導入による経営改善などの効果を明らかにしています。具体的には、全国217地区で水田作や畑作、露地野菜、施設園芸、花き、果樹、茶、畜産などさまざまな品目において新技術がどう活用され、経営にどう役立つか。あるいはデータの共有がどういった効果をもたらすかなど、実際に農業従事者に使って頂き、かつ知恵を頂きながら、改善できるものは改善して新たな技術を現場に適応させていく、といったプロジェクトです。

――具体的な取り組みとしてはどういったものがあったのでしょうか。

齊賀 例えば、データ共有の例としてJA西三河のきゅうり部会の取り組みがあります。ここでは、実証に参加した農業者がそれぞれの栽培管理に関するデータを共有し、お互いに情報交換することで全体の品質向上につなげてきました。またジェイエイフーズみやざきでは、冷凍のカット野菜をつくっていますが、そのためには周辺から安定的に原料野菜を仕入れる必要があります。品質のいい原料を安定的に確保するため、収穫をはじめさまざまな作業を農業者から受託していますが、生育予測を基に肥料を施すタイミングなどを調整することで原料野菜の搬入が平準化できたり、農業者もより安定した収入を得られるようになるといった効果も出ています。本プロジェクト以外でも同様の取り組みは北海道で多くみられ、農業者と農協、関係企業が連携した取り組みが進められています。

(出典: 農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)
(出典: 農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)

環境負荷の低減と今後の展望

――冒頭、農業による環境負荷についてのお話がありました。この点についてはいかがでしょうか。

齊賀 農業における環境負荷を低減させるためにスマート農業技術を活用している取り組みを紹介させていただきますと、例えばルートレック・ネットワークスが開発したAI潅水施肥システム「ゼロアグリ」は、日照量や土壌水分量、地温などの情報を集約し、AIが液肥供給量を割出して供給します。これによって作物の生長に合わせたかん水・施肥で収量や品質を向上させるとともに、必要最小限の肥料の投入により環境負荷低減にもつながります。また自動供給により、かん水と施肥の作業時間を大幅に削減するとともに、経験が少ない新規就農者でも利用しやすく、参入が容易になるといった利点があります。

 もう一つ、有機米デザインなどによる田んぼの自動除草ロボット「アイガモロボ」もあります。これは、GPSの位置情報を基に田んぼ内をくまなく動き、スクリューで水田の泥をかき混ぜることで水面下の光を遮り、雑草の生長を抑制するロボットです。有機農業で最も大変な除草作業をロボットが自動でやってくれるということで、有機農業の拡大に貢献するものと思っています。

 このようにスマート農業技術は、省力化やノウハウの継承、また付加価値をつけるといった効果に加え、環境負荷低減にも寄与するといえます。最大の課題である人口減少への対応という点はもちろん、持続可能な農業に向けた環境負荷低減にも貢献できることから、その意義は非常に大きいといえるのではないでしょうか。

(出典: 農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)
(出典: 農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)

――わが国の食料供給の安定化を図る、その点からも大きく期待されるスマート農業。最後にスマート農業の今後の展望、そして取り組みの推進に向けた想いや意気込みについてお聞かせください。

齊賀 冒頭にご説明したように、今後、人口減少下であっても持続可能な食料供給体制を確立するための施策の検討を進めていますが、その柱の一つがスマート農業だと思っています。スマート農業については、実証などを通じて多くの農業関係者が「いいね」といった感想をもってくださったと思っていますが、今後の課題も見出されました。特に、従来の農業機械と比べても導入時の初期コストが高い、スマート農業技術の扱いに詳しい人材がいない、また、従来の栽培のやり方にスマート農業技術を導入しても十分な効果が得られない、などの点です。本来であれば、現場の評価を受けて技術が自然に広がっていくことが望ましいのかもしれませんが、こうした課題がある中で、担い手の減少が急速に進む日本農業の生産水準が維持できるのか。また、研究機関や民間企業による研究・技術開発が、各機関の自発的な取り組みだけで難易度の高いニーズに応えられるのか。普及と研究開発、この二つのスピード感をこれまで以上に高めなければ支えられないのではないか、という危機感をもっています。

 そのためにも、これからの施策の展開として、人口減少下でも農業の生産水準を維持できるように生産性を向上させていく必要がある中、スマート農業技術の研究開発の面では、国が明確な開発目標を定めて、日本最大の農業系研究機関であり数多くの知見と先進的な研究施設等を有する(国研)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)を中心に、スタートアップや民間企業、大学などの関係者が参画して産学官連携で研究開発を進めていく必要があると考えています。普及の面では、導入コストの低減のため、スマート農業技術をサービスとして提供する農業支援サービス事業体の育成・活用を進める必要があると考えています。

 また、生産現場のやり方をスマート農業技術に対応したものに変革していくため、現場の農業者や農協などの協力者、農業支援サービス事業者、食品の加工・流通企業などの関係者の連携が重要だと考えています。現在、これらを推進するための新たな仕組みの検討を進めていますが、収入が不安定になったりすることへの不安などを払しょくして「やってみよう」という方向に現場の関係者の意識が変わらなければ、二の足を踏んでしまうかもしれません。そうならないよう、その一歩を踏み出すためのお手伝いもさせていただきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。

(出典: 農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)
(出典: 農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」)

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