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海上保安政策最前線/前 海上保安庁長官 奥島高弘

奥島 海洋監視体制の強化の一環として、無操縦者航空機の導入も決定しています。導入する機種は米国ジェネラルアトミクス社のシーガーディアンであり、今年10月中の運用開始を目指し、海上自衛隊八戸飛行場を拠点とするために必要な調整や運用体制などの検討を行っています。今年度については1機を導入し、運用指揮や情報処理を行う海上保安官の養成を行いながら運用するとしており、その後は、段階的に複数機での運用を考えています。このほか、基盤整備としては、海上保安大学校、海上保安学校、北九州航空研修センターにおける教育施設の整備も進めているところです。

 また、人材確保については、海上保安大学校、海上保安学校の採用人数を増やすとともに、インターネットを活用した募集活動を強力に推進するなど、学生の確保を図っています。
 この他、
・ 海上保安学校学生採用試験の受験年齢制限の緩和
・ 大学卒業者を対象とした「海上保安官採用試験」の新設
・ 海上保安大学校学生採用試験における試験種目の変更
 ――などの取り組みを進めており、全庁をあげて優秀な人材の確保に努めていきたいと考えています。今後、新たな国家安全保障戦略の策定の取り組みの中で、海上保安体制強化をより一層推進するとともに、国内外を問わず関係機関との連携・協力体制の強化を図っていきたいと考えています。

「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けて

――政府は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP: Freeand Open Indo Pacific」の実現に向けて各国と協力してさまざまな施策を展開しています。海上保安庁としての取り組みについてお聞かせください。

奥島 法の支配に基づいた「自由で開かれたインド太平洋」を実現するためには、「海洋における法の支配といった基本的価値観の共有」と「インド太平洋諸国等の海上保安機関への能力向上支援」が重要であると考えており、海上保安庁においてはさまざまな国際的な取り組みを行っています。

 そのために必要な取り組みの一つとして、海上保安庁では、これまで海賊事案の増加に伴い、海賊対策のため東南アジア周辺海域に巡視船を派遣して、沿岸国の海上保安機関と合同訓練などを実施し、連携協力を深めてきたほか、「北太平洋海上保安フォーラム」、「アジア海上保安機関長官級会合」、「世界海上保安機関長官級会合」など、多国間における枠組みを活用することで、各国海上保安機関間の信頼関係を醸成するとともに、海洋における法の支配といった基本的価値観の共有に努めています。

 また、海上の安全確保は、主要な物資やエネルギーの輸出入のほとんどを海上輸送に依存するわが国にとって、極めて重要なテーマであり、インド太平洋沿岸諸国などの海上保安機関に対する能力向上支援は、海洋における法秩序の維持に寄与するものです。そのため海上保安庁では、その重要性や各国からの能力向上支援に対するニーズの高まりなどを受け、2017年10月に外国海上保安機関の能力向上支援の専従部門である海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT)を発足しました。このチームは、海上法執行、捜索救助、油防除などの海上保安分野における能力向上支援を推進しており、発足以来、本年4月までに、14か国の海上保安機関に対し、計55回派遣しています。

 近年、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、諸外国との往来が困難な状況であったことから、試行錯誤しながら、オンラインを活用した能力向上支援を行ってきました。徐々に海外渡航に係る制限が緩和されたことから、本年1月には、現地派遣を再開し、ジブチやスリランカなどで能力向上支援を実施。本年4月および6月には、米国沿岸警備隊との協力のもと、フィリピン沿岸警備隊に対する能力向上支援を日米合同で実施しています。

 最も歴史の古い海上保安機関である米国沿岸警備隊は、海上保安庁とともに世界の海上保安機関の先駆的存在であり、これまで海上保安庁と米国沿岸警備隊は、さまざまな機会を通じて、合同訓練や意見交換などを行い、連携・協力関係の強化を図ってきました。近年の各国の海洋情勢に鑑みれば、海洋法秩序の維持・強化にかかる取り組みを推進するにあたり、日米間の連携・協力をさらに促進させることは必要不可欠になっています。

 こうした日米間の取り組みをさらに強化するため、海上保安庁は、共同オペレーションや合同訓練の促進、インド太平洋地域の海上保安機関に対する能力向上支援における連携の推進を目的として、本年5月、米国沿岸警備隊との間で、協力覚書の付属文書に署名を交わしました。

 今回の協力覚書の付属文書への署名により、日米両海上保安機関の共同取組を「サファイア」と呼称し、継続的に合同訓練などに取り組むことによって、両機関の海上法執行の手法や手続きに関する相互理解を深め、互いの能力を向上させるとともに、外国海上保安機関への能力向上支援などにも反映させることができると考えています。

2022年第1回日米海上保安機関合同訓練こじまとUSCG「C-27J・救難艇」の並走
2022年第1回日米海上保安機関合同訓練こじまとUSCG「C-27J・救難艇」の並走
2022年第2回日米海上保安機関合同訓練みずほとUSCG「オリバーヘンリー」の並走
2022年第2回日米海上保安機関合同訓練みずほとUSCG「オリバーヘンリー」の並走

奥島 このような活動を通じ、海上保安庁は、政府が推進する「自由で開かれたインド太平洋」を実現するため、今後とも法の支配の体現者としての範を示すとともに、世界の海上保安機関の連携協力をリードする役割を果たしていきたいと考えています。

――インド太平洋地域を中心に法の支配という共通の価値観を普及・浸透させていくことは、海の安全と平和を維持に繋がっていくと思いますが、その実現に向けて、海上保安庁長官の想いや意気込みについてお聞かせください。

奥島 海洋をめぐる世界情勢が緊迫化する中、法執行を任務とする海上保安機関の重要性は世界的に広まっており、平和・治安の安定機能としての役割は、今後ますます高まるものと考えています。

 そういった中で、海上保安庁においては、海洋における法の支配といった基本的価値観の普及・浸透を図るべく、各国海上保安機関との連携強化、シーレーン沿岸国などの海上保安機関に対する能力向上支援について、米国などの同志国と連携しつつ、引き続き主導的役割を果たすことが重要になってきます。

 とりわけ海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものが多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要であり、今後とも、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、法の支配に基づいた海洋秩序の維持・強化のために必要な取り組みを推進していきたいと考えています。
                                           (月刊『時評』2022年7月号掲載)