2024/11/20
国土の3分2を森林が占める世界有数の森林大国であるわが国。戦後植林された森林資源が本格的な利用期を迎える中、「伐って、使って、植えて、育てる」という森林資源の有効活用はカーボンニュートラルの実現に貢献するとともに、地域経済の活性化にもつながると期待されている。そうした背景もあり、2021年には「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行された。法律の施行から3年。実際、木材を活用し、デザイン性に優れた建築物を目にする機会も増えているが、改めてこれまでの取り組みや進捗、そして今後の展望について林野庁林政部木材利用課の難波課長に話を聞いた。
林野庁林政部木材利用課長 難波良多氏
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都市の木造化推進法と施行3年の実施状況
――近年、木材を活用した建築物が増えてきています。これには2021年10月に施行された「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(以下、都市(まち)の木造化推進法)の影響も大きいかと思いますが、改めて本法の概要についてお聞かせください。
難波 わが国は国土の3分の2が森林という世界有数の森林国です。戦後植林された人工林が本格的な利用期を迎える中、2010(平成22)年には、国や地方公共団体が率先して木材を建築物に活用しようという「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が制定されました。その結果、公共建築物の木造率も上昇し、低層(3階以下)の建築物では令和4年度で29・2%(法制定時17・9%)と、全体の約3割が木造となっています。
一方、建築物全体の木造率を見ると、低層住宅は8割が木造ですが、低層でも住宅以外の店舗や事務所、あるいは4階以上の中高層建築物の多くは木造ではありません。そのため公共建築物だけでなく、建築物一般の木材利用を進める必要があるとして2021(令和3)年10月に施行されたのが、いわゆる「都市の木造化推進法」になります。
正式な法律名にもある通り、脱炭素社会の実現を目的に、それに向けて建築物における木材利用の促進に関する施策の拡充や農林水産省に木材利用促進本部を設置するなどして、関係省庁が一体となって木材利用を促進していく体制を整備しています。
――都市の木造化推進法の施行から3年。木材利用促進に向けた措置の実施状況についてはいかがでしょうか。
難波 都市の木造化推進法に基づき、木材利用促進本部が毎年1回、国の基本方針に基づく措置の実施状況を公表しています。本年3月に公表した実施状況によると、法律に基づく木材利用方針が全都道府県で策定されるとともに、94%の市区町村が既に策定済みになっています。ただ現在、都市の木造化推進法に基づく新たな基本方針を踏まえて木材利用方針の改定をお願いしているところであり、全ての地方公共団体で改定が完了しているわけではありませんので(45都道府県、685市区町村が改定了)、働きかけを続けているところです。
また昨年2月、木材利用促進本部事務局に「建築物の木造化・木質化支援事業コンシェルジュ」を設置し、木造化・木質化に向けたさまざまな相談に対応できる体制を構築しました。設置から約1年間で174件の相談を受けており、その後も継続的に相談が寄せられています。これからも相談者の状況やニーズを踏まえて丁寧に対応していきたいと考えています。
公共建築物の木造化が進んでいる点については触れましたが、国が整備する公共建築物での木材利用推進状況を見ますと、直近令和4年度に整備した公共建築で木造化された建築物が91棟(前年+16棟)であり、初めて木造化率100%を達成することができました。この木造化率は、木造化になじまないと判断したものを除いて計算した数字になります。これがゴールというわけではありませんが、この100%を可能な限り維持できるように取り組んでいきたいと思っています。
建築物木材利用促進協定と啓発に向けた国民運動
――では、具体的な部分について伺わせていただきます。木材利用促進の取り組みの一つに「建築物木材利用促進協定制度」がありますが、具体的な協定としてはどういったものがあるのでしょうか。
難波 まず木材利用促進協定ですが、これは都市の木造化推進法に基づいて新しくできた制度です。具体的には、建築主となる事業者に今後、木材をどのように利用していくかという構想を立てていただき、国や地方公共団体がその事業者と協定を締結するという制度になります。
協定を締結すると、国や地方公共団体から技術的助言や情報提供を得られたり、一部の予算事業において財政的支援を受けやすくなるといったメリットもあります。現在、国との協定が21件、地方公共団体とは124件の協定が締結されていますが、実際に締結した事業者からは「協定を締結したことでマスコミ・報道に取り上げられるなど認知度が上がった」や「社会的評価が向上した」といった声も上がっています。
最近の事例(国)では、カー用品の販売などを手掛ける株式会社オートバックスセブンと本年6月に協定を締結しています。協定では、今後3年間に新築する一部の店舗について、25㎥以上の地域材を利用する設計を基本とし、3年間で計150㎥の地域材利用を目指すとしています。
さらに8月には、株式会社セブン-イレブン・ジャパンとの協定を締結しました。セブン-イレブン・ジャパンは全国で2万店舗以上を有するコンビニ業界で最大手の企業です。協定では5年間で約1375㎥の地域材を利用するというもので、これは毎年25店舗の木造化を目指す中身になっています。また8月29日には福岡県の「福岡ももち店」が協定締結後初となる木造店舗としてオープンしています。セブン-イレブン・ジャパンによると福岡ももち店は内外装も木質化するなど、パイロット店舗として注力したもので、オープニングセレモニーも盛大に行われました。コンビニという消費者にとって身近な存在が木造化されるのは与える影響も大きく、今後他の分野の店舗や事務所などにも波及していくことを期待しているところです。