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デジタル庁デジタル改革政策最前線/デジタル庁統括官 二宮清治氏

自治体の標準準拠システムへの移行

(資料:デジタル庁)
(資料:デジタル庁)

 とかくクラウド自体、セキュリティが脆弱ではないのか、コストがより高くなるのではないか等の懸念を持たれる向きがありますが、ガバメントクラウドに関しては最新・最高の情報セキュリティを確保し、経済的合理性と技術合理性を両立させ、投資対効果を可視化していきます。具体的には、データセンターを国内に設置するとともに、その契約の解釈は日本法に基づき日本の裁判所が管轄します。また、ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)を取得した事業者のサービスを調達することとしています。不正アクセス防止・データの暗号化もしっかりと担保しています。さらに、直接契約、従量課金等によるコスト低下も図っています。

 そして2024年4月以後は既存のサービスについて、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)という形での利用も進めているところです。まずはデジタル庁として提供できるサービスをSaaSとして活用し、以後は民間のさまざまなサービスを利用可能にしていく、という流れを考えています。

 一方、地方公共団体におけるクラウドの移行については、昨年10月に取りまとめた「地方公共団体情報システムの標準化基本方針」に基づき、「2025年度までにガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへの移行」を図り、情報システムの運用経費等についても「2018年度比で少なくとも3割の削減」を目指します。標準化によってコストの削減、情報システムの迅速な構築と柔軟な拡張、個別のセキュリティ対策が不要になるなどのメリットが想定されています。日本全国約1700自治体における20の基幹業務について、各自治体と協力しながらシステム統一、標準化を進めたいと思っています。

ガバメントソリューションサービス

 ガバメントクラウドの推進と並び、各府省LANシステムのガバメントソリューションサービス(GSS)への移行も重要な施策となります。これまで、ネットワークの整備を重複して調達するようなケースがあったほか、統一的なセキュリティの確保が難しい、さらにはコロナ禍以後のオンライン会議が省庁間を超えて接続できない、等々の問題がありました。これを踏まえてデジタル庁では全省庁のLAN環境を統合し、その上でGSSを全省庁の基盤として提供していきます。そのベースとなるレイヤーのネットワークもデジタル庁にて統一的に調達・運用するという、ある意味かなり大がかりなプロジェクトだと言えるでしょう。これにより、テレワークを100%実施可能とし、業務支援ツールの導入を100%とし、柔軟な働き方と、ゼロトラストセキュリティ(境界型防御+端末防御)の考え方に基づくセキュアな環境の確保を両立できるものと期待しています。

マイナンバーのさらなる利用拡大へ

 続く二番目の柱、「生活者、事業者、職員にやさしい公共サービスの提供」について、これはマイナンバー制度の整備、そしてマイナンバーカードの利活用が中心となります。本年2月末段階でマイナンバーカードの累計申請数は9300万枚超、人口の75%近くが申請しているという状況です。実際に地方自治体の中にはマイナンバーカードが住民の90%超にいきわたり、自治体でデジタル化のツールとして効果的に活用され、市民サービスの向上につながっている例も出てきています。

 またマイナポータルにおいて、国民がマイナンバーカードを使ってさまざまな申請や自己情報を確認するにあたっては、ユーザーインターフェースの改善も求められます。昨年12月に新しいマイナポータル実証版をリリースしました。従来のマイナポータルに比べて簡便性などの面でかなり使い勝手が良くなっております。このマイナポータルはデジタル庁発足以後、順次機能強化を図っており、今年に入ってからは電子処方箋情報の閲覧機能、引っ越し時のオンライン手続き機能などを実施しました。2024年度からは国家資格関係システムとの連携、戸籍情報連携システムとの連携などが予定されています。このように機能が強化するにつれて利用者も増えており、利用者フォルダ数は今年1月末時点で4430万件になりました。

 一方、マイナンバー制度の活用においては、「自治体が保有する情報活用」「本人を介した官民の情報活用」「行政機関間のバックオフィス連携」という三つのルートを通じて、支援を必要とする方に手が差し伸べられ、また適切な支援等が迅速に受けられるような「デジタル・セーフティネット」の強化をより一層、図っていきたいと考えています。

 そして現在、公共サービスメッシュ(情報連携の基盤)について取り組みを進めています。例えば「スマートフォンで60秒で手続きが完結」「7日間で行政サービスを立ち上げられる」等の目標に向けて、2025年度を実装のターゲットとして検討を進めているところです。実装されたあかつきには、行政機関間の情報連携インフラが刷新され、またプッシュ型サービス実現のための自治体内の住民情報の活用が可能となります。

 また本年3月7日に「マイナンバー法等の一部改正法案」が閣議決定されました。主な内容は、マイナンバーの利用範囲の拡大、より迅速な情報連携を可能とする規定の見直し、マイナンバーカードの在外公館交付を可能とする措置、戸籍等の記載事項への「氏名の振り仮名」の追加、公金受取口座の登録促進、等々です。これにより、例えば公金受取口座の登録が進み、緊急時の給付金や年金等の受取口座としてより多くが利用できるようになるとともに、券面に氏名のフリガナを振ることで官民問わず振り仮名が本人確認事項として活用されることになります。

アナログ規制の見直しに注力

 三番目の柱である「デジタル基盤の整備による成長戦略の推進」について、です。これについてはデジタル臨時行政調査会で進めているデジタル原則に照らした規制の点検・見直し作業が取り組みの中心となります。これまで、構造改革のための五つのデジタル原則、①デジタル完結・自動化原則、②アジャイルガバナンス原則、③官民連携原則、④相互運用性確保原則、⑤共通基盤利用原則に照らし、国が定めるアナログ規制を(1)目視規制、(2)実地監査、(3)定期検査、(4)書面掲示、(5)常駐専任、(6)対面講習、(7)往訪閲覧の7項目に分け、それぞれの規制ごとに点検・見直しを進めてきました。例えば、これまで人が目視で行っていたインフラ施設の点検をドローンなどの遠隔操作と画像解析で行うこと、介護サービス事業所における人員の常駐について、テレワークを活用することによりオンライン対応を可能にすること、従来は現地調査が必要だった罹災証明書の交付に係る被害認定調査を自動化・無人化すること、等々が該当します。既にいくつかの条項は規制見直しが実施されました。

 このようなアナログ規制の見直しは、日常生活全般において非常に多岐広範にわたり、現在7項目計約1万条項の全てについて見直し方針および工程表をまとめているところです。こちらも3月7日に「デジタル規制改革推進のための一括法案」が閣議決定されました。これらアナログ規制を見直すことで、人手不足の解消や生産性の向上、行政の在り方の変革による国民利便性の向上と行政の負担軽減の各種効果のほか、さらにはさまざまな技術の活用が進むことによるスタートアップ等の勃興など、成長産業の創出にも資すると想定しています。

 そして、地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しを支援すべく、マニュアルも作成、公表しています。また、デジタル田園都市国家構想交付金の活用による後押しなどもしています。さらに明治以来、紙媒体で発行してきた官報の電子化を図ります。法令公布の手段でもある官報の電子化は、法制分野のDXの基盤になるという大きな意味を有しています。

 同時に、①健康・医療・介護、②教育、③防災、④こども、⑤モビリティ、⑥取引(受注先・請求・決済)といった準公共分野のデジタル化も推進を図ります。どの分野も当該関連データの利活用を促進し、また防災などは防災DXに向けた官民連携体制を構築して、多くの関係者の参加をいただいております。

(資料:デジタル庁)
(資料:デジタル庁)

 このようにデジタル庁が取り組む範囲は広範多様ですが、基本的には前半で申し上げた三つの柱を原則として、今後もデジタル改革をしっかり進めていきたいと思います。
                                               (月刊『時評』2023年5月号掲載)