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「デジタル田園都市国家構想総合戦略」のポイント/市川篤志氏

内閣官房デジタル田園都市国家構想政策最前線

いちかわ あつし/昭和39年7月16日生まれ、長野県出身。東京大学法学部卒業。平成元年建設省入省、大蔵省、OECD、福島県、北陸地方整備局等を経て、27年水管理・国土保全局水政課長、28年総合政策局政策課長、30年大臣官房会計課長、令和元年大臣官房審議官(総合政策、土地・建設産業)、3年土地政策審議官、4年6月より現職。
いちかわ あつし/昭和39年7月16日生まれ、長野県出身。東京大学法学部卒業。平成元年建設省入省、大蔵省、OECD、福島県、北陸地方整備局等を経て、27年水管理・国土保全局水政課長、28年総合政策局政策課長、30年大臣官房会計課長、令和元年大臣官房審議官(総合政策、土地・建設産業)、3年土地政策審議官、4年6月より現職。

 2022年6月に閣議決定された「デジタル田園都市国家構想基本方針」においては、その理念として“「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指して”と明記されている。少子高齢化等の社会課題に対し、デジタル技術を活用することで、約半世紀にわたる地方創生のテーマが具体的に体現される時が来た。今回、実現会議の市川次長に、同年末に閣議決定された5 カ年の総合戦略を中心に、“デジ田”構想の最新動向を語ってもらった。

内閣官房内閣審議官
デジタル田園都市国家構想実現会議事務局次長
市川 篤志氏


今に通じる、大平政権の理念

――岸田政権は発足後、主要政策として〝デジ田〟ことデジタル田園都市国家構想の実現を掲げました。これまでも政府は、地方の活性化を目指した地方創生に取り組んできましたが、この〝デジ田〟は従来の地方創生の推進とどう関係しているのか、構想に至る経緯と併せてご解説いただけましたら。

市川 ご指摘の通り、地方創生の新しい旗として同構想は位置付けられています。その戦略を一言で申せば、デジタル技術を駆使することで、いわゆる田園都市国家構想を今こそ実現すべき、これまで進めてきた地方創生の取り組みをデジタルの力を使って加速化し、深めていく、という趣旨であるとわれわれは認識しています。

 第二次安倍政権発足後、人口減少が本格化する中で、地方の振興・地域の活性化のための施策が本格的に議論され、2014年秋には、「まち・ひと・しごと創生法」が成立、総合戦略が策定されるなど、地方創生は政府の主要施策となり、今や、地方創生という言葉は人口に膾炙するところとなりました。わが国の国土計画(現在の国土形成計画)の変遷を見ても、長年のテーマであると言えるでしょう。東京をはじめ大都市圏への過度な人口集中をできるだけ抑制し、地域の持続可能性を高めることで国土全体の活力を維持していく、これは日本の国土政策に通底する考え方です。

 その理念は、今回の〝デジ田〟構想に引き継がれ、22年12月に、23~27年度までの5カ年計画「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(以下、総合戦略)が取りまとめられました。まさしくこの4月からスタートしたところです。デジタルの力もフル活用して田園都市国家構想を実現し〝全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会〟を築き上げて行こうというのが総合戦略の眼目です。

――「田園都市国家構想」と言えば、かつての大平正芳政権当時の主要政策でした。今では同構想の骨子も知らない若い世代も増えているかと思います。

市川 大平総理が立ち上げた政策研究グループから、「田園都市国家構想」に関する報告書が示されたのは1979(昭和54)年のことでした。同報告書には、明治以来の過度集中を是正し、バランスの取れた「分散=集中型システム、多極分散型システムへの移行を目指すことや、個性ある地域づくり、人間中心のまちづくり、など半世紀近く経った現在にも通じる考え方が明示されています。

 もともとこの田園都市という着想は、19世紀末に近代都市計画の祖と言われる英国のエベネーザー・ハワード氏が提唱した概念です。産業革命が進む英国では都市部で公害や住環境の悪化が深刻化する一方、農村部の人口流出と疲弊が顕在化し、これを憂いた同氏は都市と農村の結合を掲げ、快適で文化的な地域づくりをすることで都市の過密と農村の過疎化を共に解決するという考え方を示しました。

 大平総理の構想はこの考えを援用したもので、〝田園に都市の活力を、都市に田園のゆとりをもたらし、両者の活発で安定した交流を促す〟という理念を掲げました。アフターコロナの今こそ、日進月歩の発展を遂げるデジタルという今日的技術を活用し、都市の利点と田園の豊かさを結合した第三の生活を実現する、それが〝デジ田〟構想の系譜であると捉えています。

国からモデル地域ビジョンを例示

――では、総合戦略が取りまとめられた背景をお願いします。

市川 2020年からの新型コロナウイルス感染拡大が大きな転機となり、個人レベルでも企業レベルでも、都市から地方への志向が高まりました。このような展開は過去に例が無かったと思います。

 例えば移住への関心を問うアンケート調査などでも、以前はリタイア世代が故郷に帰るというケースが多数を占めていたものの、近年は、現役の若年世代の関心が高まっています。19年からスタートした移住支援金を活用している人も、コロナ禍前まで1000人弱だったのが足下の段階では3000人以上に増えています。

 また、企業に関しても、企業版ふるさと納税が、ここ数年、急速に増え21年度には5000件に迫り総額200億円以上に上っています。地域の活性化、故郷の振興に貢献したいという経営者の方々の思いが反映されたものと受け止めています。お金の流れだけでなく、首都圏の企業の転出入の動向をみても、帝国データバンクの統計によれば、本社機能を首都圏から地方に移した企業が22年度は77社の転出超過で、ここ2年連続の転出超過となっています。

 このような流れの中で、かつての政権構想で掲げられた「田園都市国家構想」を、デジタル技術を使って実現していく好機である、それが総合戦略策定の背景であると言えるでしょう。

――そうしますと、総合戦略のポイント、施策の方向としてはどのような。

市川 総合戦略の基本コンセプトとしては、東京圏への過度な一極集中を回避し、地方に住んでいても都会と同等の利便性やサービスを享受できる環境をつくる、それを通じて地方における各種社会課題を解決していこう、いや課題解決にとどまらずむしろ成長の原動力としていきたい、というのが目指すべき姿です。そのため、実験や実証ではなく既に実装の段階に至っているデジタル技術も多くある中で、各地域に生まれつつあるデジタル活用の優良事例を全国津々浦々に展開していこうというのが基本戦略となっています。

 施策の方向は、大きく、「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」と「デジタル実装の基礎条件整備」の二つから構成されます。前者は地域の主体的な取り組みを支えるもので、①地方に仕事をつくる、②人の流れをつくる、③結婚・出産・子育ての希望をかなえる、④魅力的な地域をつくる、の四つのカテゴリーに整理しています。後者は、こうした地域の取り組みの土台となる、主に国が中心となって行う施策で、①ハード・ソフトのインフラ整備やルールづくりといったデジタル基盤の整備、②質・量とも不足しているデジタル人材の育成・確保、③デジタルデバイド対策としての誰一人取り残されないための取り組み、の3点です。

――お話を聞くと、国から地方に対し積極的な姿勢が感じられます。

市川 今後、各地方自治体においてデジタルの活用も組み入れた地域ビジョンを策定する流れとなりますが、その参考となるよう、国の方からモデル的な地域ビジョンや重要な施策分野を示すなど、国としても地域戦略の実行に際して一定の関わりをもって行こうというのが今回の総合戦略のポイントです。

 もちろん地域の将来ビジョンを描くのはその地域の方々ですが、その参考として、25年度までに100地域で実現を目指すとされているスマートシティやデジ田構想の先導役としてのスーパーシティ、条件不利地域において27年度までに150地域以上の登録を目指す「デジ活」中山間地域のほか、脱炭素先行地域、大学を核とした産学官協創地域などのモデル地域ビジョンの例をお示ししています。また、重要施策分野については、こうした分野でデジタルを活用したらより便利になると思われる七つの分野、すなわち地域交通、こども政策、教育DX、地域防災力の向上、遠隔医療、テレワーク、観光DXなどを例示しています。

――地方に対する支援の在り方は。

市川 こうした地域ビジョンの実現に向けた支援方策として、当然のことではありますが自治体職員の目線に立って関連施策を取りまとめ、メニュー化して分かりやすくお示しすることや、モデル地域の選定と重点支援を位置付けている点も総合戦略の特長の一つです。また、全国の優良事例を総理表彰する「Digi田甲子園」を夏冬開催していますが、そうした優良事例の横展開を交付金等で応援していきたいと考えています。さらに、小規模自治体に対しては、国などから人員を派遣する〝伴走型支援〟にも取り組んでいけたらと思っています。もう一つ、距離・空間の垣根を乗り越えることこそデジタルの強みですので、共通の社会課題を抱えた遠隔の自治体同士の連携も含めた地域間の連携を活発化させていきたいと思います。