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地方創生の今/内閣府地方創生推進事務局長 市川 篤志氏

いちかわ あつし/昭和39年7月16日生まれ、長野県出身。東京大学法学部卒業。平成元年建設省入省、28年国土交通省総合政策局政策課長、30年大臣官房会計課長、令和元年大臣官房審議官(総合政策、土地・建設産業)、3年土地政策審議官、4年内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局次長、5年7月より現職。
いちかわ あつし/昭和39年7月16日生まれ、長野県出身。東京大学法学部卒業。平成元年建設省入省、28年国土交通省総合政策局政策課長、30年大臣官房会計課長、令和元年大臣官房審議官(総合政策、土地・建設産業)、3年土地政策審議官、4年内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局次長、5年7月より現職。

 地方創生という言葉が政府から発せられて約10年。その内容は新型コロナウイルス感染拡大や、デジタル技術の急速な進歩など、外部環境の変化に対応しながら一貫して地方自治体、地域の活性化に意を尽くしてきた。近年ではさらに所管する事務の幅が多様化し、数々の新たな施策に着手している。そうした地方創生の、直近の動向を市川事務局長に網羅してもらった。



 「地方創生」という言葉が掲げられたのは今から約10年前、第二次安倍政権の時代でした。以後、政府の主要政策の一つとして進展し、言葉自体も定着した感があります。岸田政権においては、この地方創生の新しい旗印として〝デジ田〟ことデジタル田園都市国家構想を掲げており、同構想を含めて、地方創生の最近の動向について話したいと思います。

 私が昨年7月まで所属していた内閣官房のデジタル田園都市国家構想実現会議事務局が地方創生の総合的な企画部門を、一方、現在私が事務局長を務めている内閣府の地方創生推進事務局は、地方創生関係の法律・予算・税制等のいわば執行部門を担っています。かつ、こちらでは国家戦略特区などの規制・制度改革、都市の再生や明治日本の産業革命遺産、また最近では、コロナ禍や物価高騰に対応した地方創生臨時交付金の執行、半導体関係の国家プロジェクトに関連するインフラ整備など、非常に幅広く担当しています。

高まる、地方への関心

 かつて大平正芳総理(当時)が掲げた「田園都市国家構想」を、今こそデジタル技術も駆使して実現を図るべく、デジ田構想が2021年に打ち出されて以来2年が経過しました。全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を実現するというコンセプトは、一定程度浸透したのではないかと思います。それ以前の「まち・ひと・しごと創生」の後継に位置するのがこのデジ田構想となります。

 「若年女性人口が2040年に5割以上減少する市町村が全国1799のうち896にのぼる」という、いわゆる「増田レポート」が14年に発表されて以来、政府においては、「まち・ひと・しごと創生法」の制定と総合戦略の策定にはじまり、現在のデジ田構想へと、地方創生は政府の主要政策テーマとして位置付けられています。

 この背景には、少子高齢化、人口減少の本格化があります。今後は、少子化対策を息の長い取り組みとして充実しつつ、他方で、われわれ一人一人が、人口減を所与の事実、現実のものとして正面から受け止め、いかにして経済・社会の活力を維持し、地域の営みを守っていくのか考えていかなければなりません。

 また、コロナ禍にあって東京圏への人口の転入超過が弱まりましたが、再び東京圏への一極集中傾向が顕著になっています。2023年の東京圏への転入超過は11・5万人。その大半を10代後半~20代の若者が占めており、進学や就職が契機になっています。人口流出が続く地方においては、これまで人口5万人未満の規模の小さい自治体ほど人口減少が激しかったものの、程なく中規模自治体においても大幅な人口減少が現実のものとなり、自治体の人口減少はその規模を問わなくなっていくことは容易に予測できます。

 その一方で、東京圏在住者の地方に対する関心は、個人でも企業でも高まっていると言えます。個人レベルでは、いわゆるシルバー世代ではなく、20~30歳代でその傾向が強く表れているのは着目すべき現象です。テレワークの普及で地方でも問題なく働けることが分かった、自然豊かな環境に魅力を感じた、というのがその主な理由となっています。移住支援金の交付実績は、2019年度の制度開始以来右肩上りで伸びています。若年層、現役世代の価値観やライフスタイルが多様化する中で、大都市ではなく地方で心豊かに暮らしてみたい、あるいは地方にも生活拠点を持ちたいと考える人々は着実に増えていると言えましょう。

 もちろん、いざ関心を実行に移すにあたっては、収入面の懸念や地域コミュニティの人間関係に不安を感じる声もあります。この点、受け入れ側となる地方自治体、地域の方々の意識のありようも問われるところです。

 次に、企業の動向です。帝国データバンクの首都圏・本社移転動向調査によれば、2022年は2年連続の転出超過となっています。また、働き方改革や人材確保の観点から地方に拠点を設ける企業が増えている中で、サテライトオフィス等の整備に取り組む地方公共団体も年々増加し、23年6月段階で747団体に上ります。企業版ふるさと納税も金額・件数とも順調に伸びており22年度段階で寄付額341億円、寄付件数8390件となりました。寄付額は前年の1・5倍となり、地方・地域のプロジェクトに貢献したいという企業の思いも年々高まっている様子がうかがえます。

(資料:内閣府)
(資料:内閣府)

デジタルの「実装」による地域課題の解決へ

 デジ田構想の大きな特長は、デジタル技術活用の実証や実験ではなく、その実装によって地域の課題解決に取り組む地方公共団体を応援していく点にあります。デジ田構想の総合戦略では、デジタル実装に取り組む地方公共団体を2024年度までに1000団体、27年度までに1500団体とするという基本目標を掲げているほか、主な指標として、例えばサテライトオフィス等を設置した地方公共団体を24年度までに1000団体に、1人1台端末を授業でほぼ毎日活用している小中学校の割合を25年度時点で100%に、物流DXを実現している物流事業者の割合を25年度時点で全事業者の70%にするなどの各種のKPIを設定しています。

 加えて、こうした取り組みを支える基盤整備に関するKPIとして、光ファイバーの世帯カバー率や5Gの人口カバー率などはほぼ100%近くに、データセンター拠点を今後数年間で十数カ所整備する、デジタル人材を26年度までの累計で230万人育成する、高齢者はじめ〝デジタル弱者〟を支援するデジタル推進委員を現在の2万人強から27年までに5万人に増やす等の目標を設定しています。

 また、地方公共団体の参考とするため、いくつかの「地域ビジョン」を国の方から例示させてもらいました。スマートシティの選定数を25年までに100地域、「デジ活」中山間地域の登録数を27年度までに150地域、脱炭素先行地域の選定および実現を25年度までに少なくとも100カ所、等々の地域ビジョンの実現に向けたKPIも設定しています。

 2023年7月、国土のグランドデザインとしての国土形成計画が閣議決定されましたが、デジ田構想のポイントを色濃く反映するものとなっています。例えば、「地域生活圏」という新たなワードを提唱しています。過疎地などでは買い物や病院へ出かけるとき、隣の市町村へ行くのはごく一般的なことであり、市町村の枠組みで生活や経済活動をとらえるのは適切ではありません。既存の行政区域の枠を超え、われわれの生活実態に即した圏域に着目し、さまざまなサービスや活動が継ぎ目なく展開されることが理想でしょう。こうした地域生活圏を豊かで便利な圏域としていくためには、自動運転、遠隔医療、ドローン等デジタル技術の利活用により、交通、買い物や医療など生活上の問題を解決していくことが求められます。それには官と民がより積極的に連携し、リアルな現実を踏まえた上でデジタル技術を徹底活用して地域の持続可能性を高めていく、リアルをどう変えて行けるか、そんな共通認識のもとに地域の経営がされていかなければなりません。