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◆ GIGA スクール構想最前線

新型コロナウイルス感染症の影響

――GIGAスクール構想は2023年度までの整備を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大をうけ、その実装が2020年度へ前倒しされました。新型コロナウイルス感染症は教育の現場にも大きな影響を及ぼしたと思いますが、何か変化はあったのでしょうか。

下屋 感染拡大防止のため休校せざるを得なかった学校にとっては、学習の継続や今後のカリキュラムの修正など影響は決して小さなものではなかったと思いますし、その点についてはわれわれ学習塾や予備校も同様です。しかし、学びという点については既にオンライン環境がある程度は整っていましたので、パソコンやタブレット、極端な話、スマホがあれば学びは継続できる。そのことが分かったのは非常に意義があったと思っています。同時にご両親世代が抱いていたパソコンなどのICT機器を使って学ぶことへの抵抗感を払拭できた点も良かったと感じています。

 変化について、あえて触れるなら思考力を問う問題が弱くなったとも感じています。昨年実施したテストと比較すると、暗記科目に関してはむしろ点数は上がっているものの、思考力や記述を伴う問題については点数が下がっている傾向にあります。これを一概にICT教育の影響ということはできませんし、何かに影響するような大きな差というわけではありませんが、個人的にこの点は少し気になっています。

GIGAスクール構想の充実に向けて

――GIGAスクール構想の実現に向けて教育の現場に立つ立場から気になる点、あるいは本制度をより良く活用するために必要なものとしては何があるとお考えでしょうか。

下屋 GIGAスクール構想は、Society5.0など新しい時代を生きる子供たちに必須となるICTを学びにも活用しようというという取り組みであり、それ以外にも教育現場で大きな課題になっている〝教育の地域間格差〟を是正する取り組みの一つとして大きな期待を集めています。その目的や理念は非常に素晴らしいと思いますが、それを実現させるためには幾つかのポイントがあると考えています。

 まず一つ目がデジタル教科書の活用についてです。昨年から学習指導要領が改訂され(小学校:2020年~、中学校:2021年~、高等学校:2022年~)、それに伴い教科書も新しくなっています。当然、GIGAスクール構想で使用される教科書も新しい教科書に準拠したものになると思いますが、全国で使用されている教科書は全て一緒というわけではありません。もちろん教育カリキュラムによって年間で学習する範囲や内容については一定の基準がありますが、教科書を作っている出版社ごとに若干の違いや特徴もあるでしょう。教科書をデジタル化したことで得られる最大のメリットは学習の状況、例えばどの問題で間違えたのか、どの段階で躓くようになったのかがデータとして分かる点にあります。子供たちは自分の苦手な問題や重点的に勉強する必要がある分野が分かりますし、学校関係者にはクラス、学年、学校の傾向が分かるようになります。さらに地域から全国へ対象を広げ、データの蓄積が進めば日本全体の傾向が読み解けるようにもなります。教科書を作る出版社もデータを基に子供たちにより理解しやすい教科書が作れるようになるかもしれません。

 また教科書は複数ある点に触れましたが、もし転校して教科書が変わってしまったら、これまでの教科書で蓄積したデータはどうなるのか、新しい教科書にも自分の学習傾向などは反映できるのかといった不安も出ているかもしれませんが、いずれ解決されることと思います。もちろん、こうしたデータの利活用ができるようになるには、もう少し時間と制度の調整が必要になると思いますが、ビッグデータの活用などで実現ができるようになれば、教育・学習の現場が大きく変わるのではないかと思っています。

 そして二つ目が、自治体や学校などGIGAスクールを運用する側の姿勢、といいますか取り組み方です。教育分野は担当する役所や部署が多岐にわたるという特徴があります。GIGAスクール構想にしても、制度の構想などは文部科学省、実際の運用は自治体や学校が行うことになっていますが、自治体ごとの取り組み方もさまざまです。例えば〝一人一台端末〟の使用を学校限定にして持ち帰り不可にする、あるいは持ち帰りは自由だがセキュリティをかけて使用を制限するといった自治体もあります。ネットの悪影響を子供たちに及ぼさないように細心の注意を払うことやネットの危険性をきちんと教えることは非常に重要になりますが、あまりに制限をかけてしまうと子どもの自由な発想を妨げることになりますし、ICTの可能性を狭めてしまうことにもなりかねません。この点は非常に難しい問題になりますが、文部科学省と自治体、そして学校など教育に携わる関係者全員がそれぞれの立場から最適な解答を導き出していければGIGAスクール構想は非常に素晴らしいものになるのではないでしょうか。教育サービス事業に携わる当社としても精一杯協力していきたいと思っています。

――GIGAスクール構想や新型コロナウイルス感染症など、学びの現場は大きな改革期にあるともいえます。最後に学びの現場、その最前線に立つ貴社の今後の取り組みや教育への想いについてお聞かせください。

下屋 先述した通り、教育の現場では2021年大学入学共通テストの開始や小学校での英語教科化といった教育制度改革をはじめ、新型コロナウイルス感染症対策によるオンライン授業などの新たな教育コンテンツニーズの高まり、そしてGIGAスクール構想への取り組みとまさに大きな改革期にあると考えています。ICTの活用によって、これからの日本を担う子供たちの学習方法の幅が広がることや、大きな問題であった〝教育の地域間格差〟の解消が図れる可能性が見えてきたことは非常に重要なことだといえるでしょう。制度や仕組みは一度作ってしまえば終わりというものではありませんので、運用していく中で改善を続け、より良いものにしていくことが必要です。当社も子供たちのために制度充実に向けたお手伝いをしていければと考えています。また学びを求めているのは子どもに限った話ではありません。海外研修や英会話、あるいは職業体験などARやVR、ICTを活用することでより実践的な学習も可能になりますので、そういった部分にも力を入れていきたいと思っています。

 当社は「人を創る、ともに創る」を合言葉に「一生涯を通じた幅広い『学び』の機会を提供することで、ともに人間力を高め、笑顔あふれる社会を実現すること」を理念としています。その理念を実現できるよう、これからも努めていきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。

(月刊『時評』2021年7月号掲載)

下屋 俊裕(しもや としひろ)
昭和27年11月生まれ、鹿児島県出身。順天堂大学大学院修了。52年市進入社、平成9年第一事業本部教育本部長、11年第二事業本部教育本部長、13年取締役第二事業本部教育本部長、20年常務取締役第二事業本部本部長、22年取締役副社長、23年代表取締役社長を経て、令和2年より現職。そのほか、株式会社ウイングネット代表取締役社長、同会長。株式会社江戸カルチャーセンター代表取締役社長、会長を歴任。平成30年株式会社市進ラボ代表取締役社長、また令和2年株式会社学研塾ホールディングス代表取締役会長に就任。

市進ホールディングス

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