2024/02/02
大統領選は2020年だが、民主党の候補者選びがスタートした。オバマが出馬声明したのが2007年初頭だから、今回も春までに出そろい、そこから全国遊説を経て、秋からテレビディベートが始まり、来年1月から予備選が行われる。現時点でも、ジョー・バイデン、エリザベス・ウォーレンなどの名が挙がっているが、1年半にわたる熾烈な競争で誰が生き残るかを今から予想することは難しい。
ただ誰が民主党の候補者として選ばれるのかによって、今後のアメリカ政治を占うことは可能である。バイデン(1942年生)のような中間派が出てきてトランプに勝てば、一部の強硬な保守派を除いて、アメリカ全体を融和に導くことができるかもしれない。
対して、他の先進国と比べて全体的に右寄りのアメリカで「民主社会主義者」を自称するバーニー・サンダース(1941年生)が出てくれば、最右派を固めるトランプと最左派を固めるサンダースが正面衝突することで、保守とリベラルの分断はさらに深刻化していくであろう。同じことはリベラルの星と言われているウォーレンにも当てはまる。
一方、USAトゥデイの世論調査によると、民主党支持者と無党派の59%が新顔を望んでいる(NBCニュース昨年12月29日放送)。今のところ憶測を呼んでいるのが、昨年11月の中間選挙で現職のテッド・クルーズ(テキサス州上院議員)を苦しめたベト・オルーク(1972年生)、女性ではキルステン・ギリブランド(ニューヨーク州上院議員)、カーマラ・ハリス(カリフォルニア州上院議員)などである。
しかし民主党が有望な候補者を出しても、勝てるとは限らない。もし米大統領選で、アメリカの政策に影響を受ける地球上の全市民に参政権が与えられたら、トランプは大惨敗するだろう。それほどトランプは海外の圧倒的大多数に嫌われている。昨年末の世界中の株式市場の乱高下では、どのメディアも「トランプに振り回されている」と書いていた。
だが外国籍のわれわれに選挙権はなく、米国人が選ぶ大統領を受け入れるしかない。ではアメリカ人はどう見ているのかというと、例えば昨年12月半ばのギャロップ社の調査によると、トランプの仕事ぶりを良しとする人は39%であった。これは米大統領史では低水準だが、世界世論と比べれば、愕然とするほど高い。
何がトランプを支えているのか。昨年の中間選挙で、トランプの演説に数千人の支持者が集まって、熱狂している姿が話題になった。これは有権者に占める割合では少ないが、支持の強度という点では、とても固い地盤である。
このような考察の際、われわれは「世論」と言うが、誤解を招きかねないのは「一つ」の世論があるように受け取られることである。2016年の大統領選では6298万4842人がトランプに入れた(クリントンに投じたのは6585万3514人)。つまり一つの世論があるのではなく6300万の世論があり、それぞれは個々の思いに従って投票しているから、少なくとも、支持層をいくつかに区分けする必要はある。
昨年9月のCNNの世論調査によると、共和党に好意的な国民は45%で、これは過去7年で最高とのことである。同じ調査での民主党支持は37%だが、これは海外のわれわれから見て、信じ難い数字である。それだけアメリカが他の先進国に比べて、全体として右に寄っていることが理解できる。どれほどトランプが嫌われていようと、大統領に服従する共和党議員を国民の半数近くが支持しているのである。
この文脈で見ると、基本的な背景として、共和党の候補者が多数の賛同を得やすいから、民主党が極端に左寄りの人を持ってくれば、中核支持層を熱狂させることはできるかもしれないが、全体投票になれば、トランプに負ける可能性が高い。共和党支持率の45%とトランプ支持率の39%では、後者の方が低いが、民主党か共和党かという選択肢を与えられれば、これらの人々はトランプに入れるだろう。
これは支持の強度が弱い最低ラインであり、ここから支持の思いが強くなっていく。まずトランプに思い入れはないが、リベラルが大嫌いな人たちがいる。その次にトランプを強く支持する人は「ラストベルト(錆地帯)」の住民である。ここはかつて鉄鋼や自動車など重厚長大産業で栄えたが、脱工業化の波で機械や工場が撤退してしまった中西部から西側の地域である。彼らは東西両海岸のエリート=民主党への怒りからトランプに投票した。
ここまでが消極的支持層である。さらに上に行くと、政策で絶対に譲れない人たちがいる。移民、中絶、同性婚、銃規制などの社会問題で、保守的な理念を持つ人たちである。トランプはこの層にダイレクトに訴えているから、ここはいつまでもトランプについて行く。
いずれにせよ、世界を動かすアメリカの大統領選が始まった。われわれは観客に過ぎないが、熱心に観戦しよう。
(月刊『時評』2019年2月号掲載)