2023/02/07
2020年から始まった新型コロナウイルス感染拡大は、緊急かつ迅速な各種支援・給付の社会的要請という、会計検査の面においてもかつてない局面をもたらした。直近の令和3年度決算検査報告では、こうした社会状況を鑑みつつ、基本線は揺るがさずに厳格かつ適正な会計検査に臨んだ姿勢が現れている。特異な状況下での検査のありようについて、宮内事務総長に語ってもらった。
Tweet従来に比べ迅速性が優先
森信 新型コロナウイルス感染症が拡大してからほぼ3年が経とうとしています。特に前半、政府はさまざまな形で事業者や国民に対し給付金を支給してきました。直近の令和3年度の決算検査報告においては、これらコロナ関連について言及されていますが、まずは事務総長から内容について大まかな所感などいただけましたら。
宮内 一連のコロナ対策に関しては、やはり社会状況が緊急状態下であったこと、それに基づき迅速な対応が求められたという点をもとに、従来の給付案件に比べれば十分な事前のチェックよりも迅速性が優先されたのは確かです。その意味ではどうしても、ルールに則っていない支給が為されている可能性もあると考えています。
森信 迅速性と正確性、十分なチェックは、言わばトレードオフの関係であるということですね。特に、メディアでも取り上げられましたが、地方創生臨時交付金支給の現場では、支給に該当する要件が言わば何でもアリ、申請すれば取りあえず支給の対象になるような状態が見られたとか。こうした状況に対する検査というものは、支給が本来の趣旨に合った使われ方をしているか否かをチェックできるのでしょうか。
宮内 ご指摘の通り、同交付金の場合は原則として自治体の裁量によって使途が基本的に自由であるという位置付けになっていますので、使い道のルールに違反している、とはなかなか指摘し難い面があります。
一方、同交付金においては、交付金の使用によって当該自治体に効果があったかどうかを、自治体において検証し、その結果を公表することとなっています。従って今回の検査報告では、各自治体における事後の検証の実施とその公表の有無について取り上げています。
また、使途は確かに自由ながら、支給の過程で一部滞留し、実質的に使われていない事案については報告においてもその旨、指摘しています。
森信 滞留と言うと具体的にはどのような。
宮内 例えば商品券の発行、換金等に使用するとしつつも、換金されないまま残ってしまったような場合です。つまり交付金が有効に使われていない、ということになります。
森信 その場合、自治体にとっては雑収入のような形で受け入れることになるのでしょうか。
宮内 取りあえずは、自治体の委託を受けてその商品券を発行した商工会、商店街等に交付された、という位置付けとなります。商工会等にとっても、こうした交付金を自分たちの収入に入れるのではなく、預り金のような形になっていたかと推察されます。
今回は事後チェックの状況を指摘
森信 もう一つ、雇用調整助成金に対して悪質な申請が相次ぎ、中には刑事事件に発展したケースもありました。こうした不正が行われているかどうかも、会計検査院の検査の対象になるのでしょうか。
宮内 明確に不正がはたらいていればそれは指摘するところですが、基本的にわれわれの場合、捜査機関と違い犯罪捜査を目的としているわけではないので、不正が故意・悪意によってなされたものなのかどうかを判断することは困難なことが多いです。一方、悪意の所在は別にして、所定のルールの要件を満たしていない事案については指摘しています。
ただ、雇用調整助成金についても支給に当たっては迅速性優先という面がありましたので、前年つまり令和2年度の検査報告ではルールに反しているからといって、ただちに不当であると指摘するのではなく、今回は事前規制が緩やかだった面があるため、今後事後チェックを行うにあたり、こうした点についてよく注意する必要があるというところを報告しました。事後チェックを行う主体は地方労働局になります。
森信 なるほど地方の労働局が、雇用調整助成金を企業が適正に申請し給付を受けたかチェックするわけですね。
3年度の検査報告においては、この点の指摘事項はいかがでしょうか。
宮内 コロナ禍もある程度落ち着きを見せ、事後チェックをしっかり行う機会があった、と考えられますので、機会がありながらも事後チェックが十分ではなかった、というケースについては地方労働局に対し、その旨指摘しています。われわれの検査対象は基本的に国ですので、国の機関がしっかり機能しているかどうかを主にチェックすることになります。
森信 一連のコロナ関連の支出に関し、その指摘を会計検査院で取りまとめ、なにか問題意識を政策提言されるところまではいかないのでしょうか。
宮内 指摘を離れて政策提言自体を行うことは会計検査院の職責ではありませんが、一連の指摘の内容が、その後政策に反映されることはあろうと思われます。われわれが不合理な事態を発見してこれを指摘することが、実質的に政策提言的な意味を持つことになることがあると思います。
森信 もともとの制度自体にムリがある、と思われるような場合もあるでしょうね。
宮内 そうですね、今回のコロナ対応のように、スピードが求められる中で制度設計が十分できなかったため、それが結果として社会の実態と合っていなかった、というケースも現実にはあると思います。
もりのぶ・しげき 法学博士。昭和48年京都大学法学部卒業後大蔵省入省、主税局総務課長、大阪大学教授、東京大学客員教授、東京税関長、平成16年プリンストン大学で教鞭をとり、17年財務省財務総合政策研究所長、18年中央大学法科大学院教授。東京財団政策研究所研究主幹。著書に、『日本が生まれ変わる税制改革』(中公新書)、『日本の税制』(PHP新書)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除日本 型児童税額控除の提言』(中央経済社)等。日本ペンクラブ会員。