観光分野への支援と観光立国の実現
森信 昨年来のコロナ禍によって観光業や運輸関連分野などは大きな影響を受けていると思われますが、数字的な推移はどのような状況でしょうか。
栗田 ご指摘の通り、旅行者や交通利用者などの人流が大きく減少しましたのでその影響は非常に深刻です。われわれが、コロナウイルス感染症が拡大する以前と以後とで、宿泊業と鉄道・航空に関する影響を独自に調査したところ、昨年の緊急事態宣言による人流の減少等で非常に深刻な影響を受けた後、宣言の解除後に回復が見られるも、今年1月の緊急事態宣言を受けて再び深刻な影響を受けていることが(次ページ図:新型コロナウイルス感染症による各業界への影響)、数字として端的に表れています。
森信 昨夏以後、〝Go Toトラベル事業〟等が打ち出されましたが。
栗田 はい、それによって宿泊業などでは昨秋の段階で一時的に持ち直しが見られたものの、やはり緊急事態宣言が再発出されて以後は再び低迷しています。鉄道業界、国内線の航空業界についても同様の増減の波を描きました。国際航空線では一貫して9割以上減の状態が続いています。ただ、〝Go
Toトラベル〟自体は昨年末までの段階で、少なくとも延べ約8781万人泊の利用実績を記録するなど国民の皆さまに広くご利用いただきました。
〝Go Toトラベル事業〟に関しては、新たな旅のスタイルの普及・定着を目指す上での支援事業と位置付けてきました。例えば宿泊施設でのウイルス対策の徹底、旅行者の節度ある行動、宿泊施設や飲食施設などのウイルス対策の明示といった対応を、国民の皆さんに当然のこととして受け入れていただき、安心して旅行を楽しめる状態になることを目指しています。
森信 この状況に対し、〝Go Toトラベル〟以外にも各種支援策が講じられたと思います。
栗田 観光分野は全国で裾野を含めて約900万人の方々が従事する非常に大きな産業ですので、昨年12月に関係省庁連携のもと「感染拡大防止と観光需要回復のための政策プラン」を策定、それに則り各種対策を進めています。
大きく足下の対策と中長期的対策に分けて考えますと、足下の対策として、感染状況が落ち着いているステージⅡ相当以下と判断した都道府県が、県内旅行の割引事業を行う場合において、国として財政的に支援することとしています。むろん感染状況は刻々と変化しますので、われわれとしても状況を注視していきたいと考えています。
また、換気設備やサーモグラフィの設置などの新しい旅のスタイルに不可欠な前に向いた投資を促すための補助制度も整えました。昨年5月14日以降に遡るという工夫も行い、1000億円規模の財源を用意しています。
森信 しかしインバウンド(訪日外国人旅行者)増をはじめ、裾野の広い観光の振興自体はわが国にとって大変重要な施策ではありますね。
栗田 そうなのです。観光は中期的には日本の経済活性化、そして地方創生進展のために欠かせない政策です。そのため2020年度第3次補正予算において、全国100カ所程度の観光地で、まちなかに残る廃屋を撤去するなど、より魅力ある観光地へリニューアルを図ろうとしている地域を手助けするべく、550億円の予算を計上しました。関係者と連携して観光資源を発掘し、地域の魅力に磨きをかけるよう、支援を進めていくつもりです。観光地のリニューアル支援、魅力あるコンテンツ造成、多言語対応等の受入環境の整備などに取り組み、2030年訪日外国人旅行者数6000万人の政府目標の実現を図ります。現在は言わば、ポスト・コロナを見据えた一種の仕込みの時期とも捉えています。
従前からの問題にコロナが追い打ち
森信 では、公共交通に対する支援内容はいかがですか。
栗田 こちらも切実な支援が求められています。もともと路線バスなどの地域交通事業者は人口減少の進展や少子高齢化などにより、厳しい経営環境にありました。そこへコロナ禍が追い打ちをかけた形となり、事業継続が非常に厳しい状況です。しかし、公共交通は地域で生活の足として不可欠な役割を担っています。
そのため、地域の鉄道、バス、離島航路等の運行維持や、それぞれの設備での感染症防止対策の強化等に向けて、予算面で手厚い支援策を盛り込みました。また、ワクチン接種が本格化する中で、高齢の被接種者を接種会場まで迅速かつ円滑に輸送する手段の確保が課題です。国土交通省では、全国の自治体に対し、地方運輸局や業界団体を通じて、バス・タクシーの活用事例をとりまとめて情報提供する等により、バス・タクシーの活用をしっかり働きかけているところです。
森信 今後、人口減少と同時にITやデジタル化が進む中、地域がどのように変わっていくのかという想定の下に、それらの施策が打たれていくのでしょうか。
栗田 今回のコロナ禍は、もともと進行していた構造的課題が前倒しで表出したと捉えるべきかもしれません。見たくなかった将来を直視せざるを得なくなったともいえますが、われわれは相次ぐ支援策によって中長期的対策も講じてきていました。人口減少が進み、過疎地などでの移動手段確保が難しくなると、公共交通の担い手の多様化、あるいは自治体と事業者とのタイアップの強化が必要となります。昨年の国会で地域公共交通をサステナブルなものにするべく、改正地域公共交通活性化法が成立し、地域交通に関するマスタープランについて、地域の移動ニーズにきめ細やかに対応できる市町村等による作成が法的に努力義務化されました。国としても、計画作成に対し財政面・ノウハウ面でしっかりと支援を行います。
また、昨年の国会で独占禁止法特例法が成立しました。地域においては複数の交通事業者がトランクルートに路線をめぐらせ、必要以上の競争環境にあるケースが見受けられます。ところが独禁法のもとで事業者間調整を行うことは、カルテルとみなされていました。それを自治体の一定の関与のもと、一種の共同経営ができるような特例法が成立したのです。すでに熊本で運用の実例も出ています。これら特例も活用しつつ、路線、ダイヤ、運賃等の面からの利用者目線でのサービス改善を図るなど中長期的にサステナブルな事業体制を構築していきたいと思っています。
森信 航空分野に対する支援はいかがですか。
栗田 航空会社自身、航空機調達の見直し、従業員の出向など、血のにじむようなコスト縮減努力を重ねられています。このような努力に呼応して、昨年10月に支援パッケージをまとめました。そこでは特に航空会社に対して、航空ネットワークの維持・確保に向けて2021年度は総額1200億円規模で空港使用料や航空機燃料税の減免を実施しています。また、航空インフラを担いつつも厳しい経営環境下にある空港会社等に対し、財政投融資を活用した空港整備、無利子貸し付けやコンセッション空港における運営権対価の支払い猶予等により、支援を実施しています。
森信 コンセッション方式は、総じてどのような状況なのでしょう。
栗田 コロナ禍前まで、民間の創意工夫により多様なサービスが実施され、官民でウィン・ウィンの関係が構築できていましたが、コロナ禍による短期的な影響は避けられないところです。
森信 私はかつて民主党政権時代、〝事業仕分け〟を依頼された経験があるのですが、当時は航空特別会計の中で、黒字の羽田空港が赤字経営の地方空港の財政支援をする仕組みになっていました。この仕組みは今も存続を?
栗田 国や地元にとって重要な公共インフラである空港を維持・強化し、航空ネットワークの充実を図る上で、現在の枠組みは有効なものと考えています。一方、個々の空港の営業努力が損なわれるとの観点や民間の資金・知恵を活用することでサービス向上を図る観点から、一つ一つの空港、あるいは北海道では複数の空港をセットにして民間事業者に委ねるという形も採っています。