AIや5Gなど技術の進展が着目されるが、安藤久佳経済産業事務次官は、それが国民生活にとってどのように役立つのか、肌感覚で理解されることが必要だと指摘する。幾多の社会課題を前に、技術が普及していくためには、時に規制を設けるという手法も一つの方策であると。産業界の活動を注視してきた安藤次官の論評には、現在の企業マインドの一端が確実に表れている。
AIもIoTも一つの〝道具〟
森信 近年のAIを中心としたSociety5.0の進展が大きな課題となっていますが、産業界には実際どのような変化や影響を与えると想定されるでしょうか。まずは大局的な観点から所感を伺えれば。
安藤 前提としてAIのような新たな潮流が、幾多の社会課題に対しどのような効果をもたらすのか、を考えることが重要であり、端的に言えばSociety5.0もAIもIoT(Internet of Things)もそれぞれ一つの〝道具〟だと思っています。これらの発展と活用によって日々の生活がどう変容していくのか、少子高齢化など今の日本でも最も対策が求められる社会課題についてどうソリューションを提示できるのか、技術はそれらの解の一つとなり得る〝手段〟であるとも言えるでしょう。
仮に、安倍政権下の成長戦略に対する国民の皆さまからの評価が今一つだとすると、それはやはり成長戦略の推進によって国民にどのようなベネフィットが感じられるのか、その点をしっかりお示しできていないのかもしれません。つまり〝共感を得られる成長戦略〟には至っていないということだと思います。そこで重要なのは、技術の到達点を広くお示しすることだと思います。技術の発達を通じて課題解決の手法が具体化してくるわけですから。
ただ、技術の到達点だけ示しても、それが国民の皆さまお一人お一人にとってどのような意味を持つのか、新技術によって自分たちの生活や社会はどう変わっていくのか等が肌感覚で伝わらないとなかなか評価されません。やはり、AIにしろIoTにしろ、情報通信技術が爆発的に進展する昨今ですが、であればこそそれらの技術が直面する課題に対しどう役に立つのか、国や行政はしっかり説明していく必要があると感じています。
森信 具体的な例としてはどのような。
安藤 例えば自動運転。技術に応じてレベルが数段階に分かれていますが、その中でレベル4に達しますと、ドライバーが完全にいない状態でクルマが動くという、完全無人走行の実現を意味します。現在、世界中がそのレベル4の達成に向けてしのぎを削っておりますし、日本政府も最大限のサポートをしていますが、これが実現されたときに少子高齢化が特に著しい過疎地の暮らしはどう変わるのか、という観点で捉えていく必要があります。
全国約1700の自治体のうち、かなりのエリアで既に過疎化が顕在化している現在、高齢者中心の住民の移動手段をどう解決していくかが、非常に大きな社会課題になっています。スマートシティ、コンパクトシティなどの推進によって、エリア全体で解決を図ることが求められますが、その中でも住民の足、移動手段の解決は重要なファクターとなります。そこでこの自動運転の技術が導入されれば、例えば地域巡回バスがスマート化することが具体性を帯びてきます。運転手の人手不足もあいまりレベル4を実現した自動運転バスを導入、定着させた方が、長期的には要するコストを軽減させ、受益する便益も大きいというプランを描くことが可能です。具体的な社会課題の解決を図るという観点であれば、ひたすら技術的な高みを目指すのではなく、現実的にコストとベネフィットの関係性から最適解の得られる技術水準の社会実装を目指すことが重要ではないかと思われます。
普及を図るには規制的手法も
森信 今おっしゃった例ですが、通常の自動運転の技術であれば市場メカニズムによって進展が図られると思われますが、過疎地の場合はその市場メカニズムそのものが機能しないという問題があるのではないでしょうか。
安藤 確かに、最終的には経済原理が回るようにしていかねばなりませんが、初期段階でこれら良質の技術的手段の普及を図るには(……続きはログイン後)