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森田 実の「国の実力、地方に存(あ)り」⑮

持続的成長へ向けて「誠実さ」と「挑戦心」を持って弛まぬ努力を続ける熊谷組と櫻野社長

阿蘇大橋地区斜面
阿蘇大橋地区斜面

「いつか世の中のお為になるような仕事をさせていただきたい。難所難物(困難な工事)があれば、私にやらせてください。」(熊谷組の創業者・熊谷三太郎)

世の中の役に立つ企業を目指す熊谷組

 熊谷組は、1898(明治31)年に福井県で創業して以来、「いつか世の中のお為になるような仕事をさせていただきたい」「難所難物(困難な工事)があれば、私にやらせてください」と語った創業者・熊谷三太郎の言葉と思いを今日まで受け継いできた。これが、熊谷組の原点となっており、誠実さと挑戦心、そして活力あふれ、成長に向かうエネルギーを持った会社だと感じている。

 熊谷組グループビジョンは、「高める、つくる、そして支える。」――その具現化に向け、社会から評価され、必要とされる企業であり続ける努力を惜しまない。その上で、良質な建設サービスを市場に提供し続け、長期的な成長を実現している。また、持続可能な社会の形成に貢献するためESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)の視点を取り入れた経営にも力を入れる。

 2017年に熊谷組は、住友林業と業務・資本提携を結んだ。国内の住宅市場、建設市場は人口減少に伴って縮小するとの危機感を背景に、新たな市場創出や付加価値の高い技術開発、不動産事業での海外展開といった持続的成長に向けた取り組みにタッグを組むことで合意した。国内では今後、非木造の需要が木造に代わると見据えた取り組みであり、環境分野でのシナジー効果に期待ができる。住友林業は、「W350計画(2041年を目標に高さ350メートルの木造超高層建築を実現する研究技術開発構想)」に取り組んでおり、熊谷組は自社のノウハウを提供してサポートする。まず熊谷組は中層木造ハイブリットビルの建設・普及に意欲を示す。

 熊谷組では今、得意分野を象徴する事業を確立して〝○○の熊谷〟と言われるような新事業を見出そうとしているという。熊谷組と言えば、「トンネル」の印象が強いが、同社売上の7割を占める建築分野で熊谷組を象徴するブランディングが出来ていないことを課題と見ているのだ。「自らが開発した技術や材料での中大規模木造建築への注力や、高い技術力を発揮できた海外事業に再挑戦していく中で事業のポートフォリオを最適化できる新たな得意分野をもう一つつくりたい」と櫻野泰則社長は熱く語る。

 熊谷組はこれまで、建設事業を通して代々受け継がれてきた創業者の思いをモットーに、その時代の社会課題に対応し、社会の発展に尽力してきた。昨今、自然災害が激甚化、頻発化し、また、高度経済成長期に整備された社会インフラの老朽化が進行するなど、人々の暮らしや産業の発展を支える基盤に大きな影響を及ぼしている。

 私は2016年の熊本地震の被災地を訪問した際、熊谷組が手掛けた復興工事を見せてもらった。社会問題と真摯に向き合い、「持続可能な社会」「快適に暮らせる社会」「経済が成長する社会」の形成を目指す熊谷組の全社員と関連会社の取り組みがあらわれた現場だと感じた。

2021年5月発表の中期経営計画

 2021年5月に発表された中期経営計画は前計画の考え方を踏襲しつつ、①建設請負事業の深化(本業をより強化し、収益性を高める)、②建設周辺事業の進化(成長領域である、「再生可能エネルギー事業」「不動産開発事業」「インフラ運営事業」「技術商品販売事業」などの各事業の取り組みを加速させる)、③新たな事業領域の開拓(将来の事業環境変化に対応できるよう事業機会を創出し、収益源を多様化する)、④経営基盤の強化(人財・技術・情報・ガバナンスといった経営を支える基盤を一層強固にする)を基本方針に定めている。

 熊谷組グループの担う役割は新しい経営計画においても、「社会から求められる建設サービス業の担い手」としてしっかり位置付けられている。最近話題の渋沢栄一の著書『論語と算盤』にある「公益を第一にせよ」「世の中に尽くして適正利潤を得て発展せよ」という考え方とも通じる。

櫻野社長
櫻野社長

強い信念をもって最後までやり抜く櫻野社長を先頭に

 熊谷組の櫻野社長は学生時代から入社直後まで野球に打ち込んでいたスポーツマンらしく、快活な人柄だ。櫻野社長は日頃から「お互い伝えあって、理解しあい、認め合って、実践しよう」と社員に伝えている。利他の心に通じ、仲間を信頼してコミュニケーションを取れば、自分の力がチームの力になり、会社の力につながるとのメッセージだ。2020年4月には新たに「Take Action」「ひとりひとりがチームの力」というメッセージも発信し、これまでの「挑戦」から一歩進んで「行動」しようと呼びかける。

 新人時代に先輩から「信念と確信を持って最後までやり抜く」ことを教わった櫻野社長は、以来その言葉を座右の銘にしているという。まさに、どんな難工事にも挑戦して実現してきた熊谷組のDNAそのものと言える精神だ。2021年入社式でも、櫻野社長は「誠実さと挑戦心、あきらめないという気持ちが熊谷組スピリットだ。その襷をつないできた先輩に敬意を示し、その気持ちを受け継いでほしい」と言葉を送った。

 櫻野社長は社員との対話を尊重して全国各拠点を意欲的に回っている。全世代の社員と忌憚のない意見交換を行い、ワンチームを実現しようと精力的に活動する櫻野社長の弛まぬ挑戦に大いに期待している。そして、熊谷組は社会から求められる建設サービス業の担い手として、時代を超えて顧客と社会を満足させていくだろう。

 熊谷組には、国民の生命財産を守る建設人精神の躍動がある。

(月刊『時評』2021年7月号掲載)

森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。
森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。