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森田 実の「国の実力、地方に存(あ)り」⑭

外国人技能実習生救済のために起ち上がった武部勤「東亜総研」会長〈元自民党幹事長〉の理想と実践

武部勤氏
武部勤氏

「東洋的考えの一つの美しい特徴は、経済を道徳と切り離して取り扱わなかった点である」(内村鑑三)

 武部勤氏は偉大な人物である。外国人技能実習生問題解決のため起ち上がった。

 「外国人材共生支援全国協会(NAGOMi)」代表理事会長、「公益財団法人 東亜総研」代表理事・会長の武部勤氏は、1941年5月1日生(80歳)。北海道斜里郡斜里町出身。早稲田大学法学部卒。北海道議会議員(連続4期)、衆議院議員(連続8期)。農林水産大臣。衆議院議員運営委員長。日本ベトナム友好議員連盟会長。自民党幹事長。2012年11月衆議院解散に伴い政界引退。13年「東亜総研」代表理事・会長。同年ベトナム社会主義共和国「友好勲章」受章。17年日越大学理事。18年旭日大綬章受章。20年NAGOMi設立。

 武部勤氏は1986年から2012年までの26年間、衆議院議員として活躍した。中川一郎、渡辺美智雄ら実力者の側近として活躍した後、農林水産大臣、衆議院議院運営委員長、自民党幹事長などの要職につき、ナンバー2の実力政治家として活躍した。政界引退後も日本とアジア諸国との友好のため働き続けている。

技能実習生を支える活動

 公益財団法人東亜総研は、「東アジアの民生向上と経済発展に寄与し、もって国と国との友好関係を強化し、ひいては世界の平和と繁栄に貢献すること」を目的に、2013年6月に一般財団法人東亜総研として設立され、18年6月公益財団法人として新たにスタートした。代表理事は元自由民主党幹事長の武部勤氏である。

 東亜総研は、JICAと共同し、国家プロジェクトである日越大学(VJU)の創設にかかわってきた。VJUは、ハノイ国家大学の7番目の大学として16年9月に大学院大学として設立され、2020年10月日本学プログラムによる学部を開設した。2020年10月19日、菅義偉総理は、初の外遊先ベトナム・ハノイを訪問し、ⅤJUで講演、新入生たちと交流した。2030年には6000人の学生を擁する総合大学にしていく計画である。このほか7回に及ぶジャパンベトナムフェスティバル実行委員長として日越友好交流に多大な貢献をしてきている。

 2015年4月からは、「人つくり」に寄与することを目的に外国人技能実習生受入監理団体となり、翌5月からベトナムから最初の実習生を迎え入れ、現在では北海道を中心に350名の実習生が研修をしている。

 2020年、世界を覆うコロナ禍の中、行き場所を失った外国人材を保護支援するために二階俊博自民党幹事長より「政府と緊密に連携し、技能実習生等を適切に保護するために、外国人材等受入機関の監理団体の全国組織を設立してはどうか」との示唆を受け、武部勤代表は20年10月、新たに「一般財団法人外国人材共生支援全国協会」(NAGOMi)を設立した。

 その設立目的として、「アジアの安定と日本の持続的成長のためにともに活躍できるグローバル人材共生社会の環境整備」を掲げ、政府や都道府県等と連携して、技能実習生をはじめ外国人材を適切に育成・保護・支援し、全国各地において差別のない多文化共生社会の実現を目指しており、高い理念と志に敬意を表したい。

NAGOMiを設立

 技能実習制度は、およそ30年間、発展途上国の人材育成策として高い評価を受けてきたが、他方、一部の悪質なブローカー・監理団体・企業等による劣悪な労働環境、人権侵害により制度そのものが悪と曲解される危惧もある。弱い立場にある実習生を保護し、ともに活躍できるグローバル人材の育成支援のためにNAGOMiを設立し、武部勤氏が代表理事・会長に就任した。

 2021年1月、コロナ禍で職を失い母国にも帰ることができないベトナム人の帰国資金を集めるため、クラウドファンディングを実施した。多数の賛同を得て目標の倍以上の募集を達成できた。私も知人にも依頼し微力ながら協力をさせていただいた。

 設立後まだ間もないにも関わらず、有意義な活動を実践し、すでに財団への加盟申込団体は約100法人を超えているという。今後は、全国を8ブロック協会体制とし、全都道府県および主要都市に支部組織をつくり、各地域で目的理念を共有する団体・法人の参加協力を得ながら、「グローバル人材共生ネットワーク」を全国各地域に展開し、5年間で正会員数2000人に拡大することを想定している。また、全市町村に「なごみ会」を設立し、外国人材を適切に育成・保護支援し、差別のない多文化共生社会を実現する国民運動を起こしていくという。

日本語教育の充実も課題

 現在外国人材の活用については、「技能実習制度」と「特定技能制度」の二つに分かれているが、より一貫性のある制度に改革し、「人材育成」「人材確保」「国際貢献」を共通の基本目的としつつ、生活者の視点を重視し、それぞれのキャリアステージに合った選択幅のある在留資格制度構築を目指している。着眼大局かつきわめて現実的な方向であると評価したい。

 武部勤会長は、人口減少時代に突入し、資源のない日本が今後も持続的な成長を続けていくためには、世界の平和とアジアの安定なくしてありえない。日本の国柄を磨き、良い人材を育て、日本が外国人材から選ばれる国になることは不可欠であり、そのためには、「働きがい」「生きがい」「安全・安心」「夢と希望」がキーワードであると情熱をこめて語った。その上で「グローバル人材共生ネットワーク」の確立のため何がポイントとなるか、については、「日本の多様な文化を受け容れる度量と国の魅力を磨き上げる」ことと「日本語教育の充実」だと考えている。

 中でも、言葉は生活・習慣文化そのものであり、日本語教育の充実を図っていかなければ外国人材が職場や地域社会で日本を学び、コミュニケーション能力を高めることはできない。

 働きながら生きた日本語能力を身に着けることは、彼らにとって簡単なことではない。勉強は「その気にさせる」ことが大事であり、「いつでも、どこでも」学習できる環境が重要となる。

 NAGOMiの会員でもある「一般財団法人日本語デジタル教育推進協会」(JLDP)は、日本語eラーニングの分野で、4月からは日本語デジタルテストを実施し、10月からは「日本語デジタル検定・アドバイザー」を行う予定である。

 今後は、このような団体とも連携しながら、外国人材がより効率的な学習ができる環境づくりも課題だと武部勤会長は語る。

 NAGOMiは、外国人材の育成・保護・支援を通して貢献するという高い理念と行動原理を掲げ、コロナ禍の中で果敢に挑んでいる団体として注目を集めている。ポスト・コロナの時代は地球の安全保障が最大テーマになる。今後は、NAGOMiのより広い視野での活動に期待するとともに、優良な外国人材を輩出し、日本の国際化の中で真に開かれた日本のために貢献してくれることを強く念願している。

(月刊『時評』2021年5月号掲載)

森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。
森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。