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森田 実の「国の実力、地方に存(あ)り」⑩

熊谷市の広大な自然の中で栄える巨大リゾートを経営する杉田憲康 ㈱ヘリテイジリゾート社長訪問記

豊かな自然に包まれた「ホテル・ヘリテイジ」
豊かな自然に包まれた「ホテル・ヘリテイジ」

「自然に帰ることの外に、真の復興は無い。自然の他に、ついて学ぶべき所はない。自然こそ真の教本である」(アンドレ・シュアレス、上田敏訳)

大自然とともに

 埼玉県北部の中心都市・熊谷市の小江川に広大な自然のままの原野がある。この大自然の中に埼玉県最大規模のホテル・ヘリテイジと関連する多彩なリゾート施設がある。私は10回ホテル・ヘリテイジを訪ねたが、最良・最高のホテルだと感じている。施設も最高だが、それ以上に中身が素晴らしい。すべてのスタッフが礼儀正しく親切である。伝統的な大家族が持っていた暖かさとやさしさがホテルを包んでいる。

 スタッフ全員が優秀で、おもてなしの精神を発揮している。しっかりした社員教育が行われている。私は杉田憲康社長は天才的経営者だと思っている。

 7月31日、杉田社長を訪ね、約1時間懇談した。社長夫人、後継者になる娘夫妻とお孫さんの一家、妹の杉田茂実埼玉県議会議員が同席してくれた。杉田茂実議員は、わが夫妻の40数年来の友人である。
 
 杉田憲康社長の人生観・世界観の中心に自然と人間尊重の信念がある。熊谷市小江川の広大な原野は、杉田家が長い間守ってきた土地である。杉田社長は、ここに、巨大ホテルと広大なリゾートを建設した。杉田社長は、祖先の「ヘリテイジ(文化的遺産)」を相続し生かしている。「温故知新」である。杉田社長は語る。

 「ルソーは『自然に帰れ』と説いたが、私は『人間に自然に帰れ』と言いたい。熊谷市小江川には、大都会都会地にあるものは何もない。あるのは自然のみ。大都会にないものだけがある。ここから見えるのは360度自然だけ。一つだけ例外がある。東北地方から東京へ電気を送る送電線と鉄塔だけが目に入る。この大自然が私の出発点だ」

 同席の杉田茂実埼玉県議会議員は、「これからの埼玉県、これからの日本が生きる道は農業・農村の再生です。埼玉県政の半分の機能を熊谷市に移し、埼玉県を農業県として繁栄させたい。農業の発展なしに日本の未来はない」と語った。杉田議員は埼玉県民期待の実力政治家である。

 杉田社長のすぐれた補佐役の杉田社長夫人は「自然のある田舎こそ、子供や孫の子育てと教育にとって最適の場所です。自然こそ、最良の教材です。ヘリテイジリゾートにおいでくださるすべての皆さまに、自然の良さ、ありがたさを感じていただきたいと願っています」と語った。

 後継者の娘夫妻も三氏の言葉にうなずいていた。杉田家全員が限りなきやさしさの持ち主である。

杉田社長の経営理念

 すぐれた人物にはすぐれた師がいる。杉田社長には4人の師がいた。第一の師は父親の杉田彌平氏、第二の師が岳父の前野徹氏、第三の師が杉田憲康夫妻の媒酌人・瀬島隆三氏、第四の師が稲森和夫京セラ名誉会長である。

 父親の杉田彌平氏は戦後の日本の地方政治のリーダーとして知られた有力な地方政治家だった。

 岳父の前野徹氏は財界トップリーダーとして、政官財界に強い影響力を発揮していた。私は前野氏と数回会ったが、大きな人物だった。

 媒酌人の瀬島隆三氏は政官財界を動かすほどの実力者だった。私は数回会う機会があったが、高い見識をもった誠実で謙虚な大人物だった。

 稲森和夫氏は現在の日本の経済界を代表する偉大な経営者である。

 杉田社長が4人の師から学んだことは多い。とくに歴史と伝統を大切にしつつ革新的姿勢で将来を探求するためのバランス感覚をもって事業に取り組むことを学んだ。

 杉田社長の生き方は、「ヘリテイジ(文化的遺産)」というホテル名に示されている。祖先、先人が遺してくれた文化的遺産を後世につなぐという責任を強く自覚している。

 「ホテル・ヘリテイジ」は皇室からも愛されている。天皇夫妻、皇太子、秋篠宮、常陸宮がしばしば宿泊している。平成元年には常陸宮殿下・同妃殿下が「ホテル・ヘリテイジ」に宿泊。平成16年10月には天皇皇后両陛下が2泊された。同時に常陸宮殿下・同妃殿下も2泊。秋篠宮殿下も宿泊。同年11月皇太子殿下(現天皇)が2泊された。

 天皇皇后両陛下、皇太子殿下、秋篠宮殿下、常陸宮殿下・妃殿下がしばしば宿泊されるホテルは珍しい。宮内庁、政府の信用が厚いのである。杉田社長は皆から信頼されている。

杉田憲康社長と家族の皆さん (左から二人目が杉田茂実埼玉県議会議員)。
杉田憲康社長と家族の皆さん (左から二人目が杉田茂実埼玉県議会議員)。


 とくに私が強く感じてきたのは「ホテル・ヘリテイジ」の限りなきやさしさと温かさである。根底にあるのは杉田家の深い家族愛だと思う。

 杉田社長は家族を大切にし、家族全員が一体となってホテル・リゾート事業に全力で取り組んでいる。ホテル全体が大家族である。

 杉田社長には二人の優秀な女性補佐役がいる。杉田社長夫人と妹の杉田茂実埼玉県議会議員である。頼もしい後継者も育ってきている。娘夫妻と可愛い孫である。美しい家族愛が「ホテル・ヘリテイジ」の心である。

ホテルで例年行われている薪能の様子。
ホテルで例年行われている薪能の様子。


伝統文化の継承

 杉田社長は日本文化の継承にも熱心である。20年前の2001年1月1日の『埼玉新聞』の「月曜放談」で杉田社長はこう述べた。

「弊社のホテルで13年間、毎年10月に開催される薪能。この薪能は十数年前に岳父・前野徹より薪能の発祥の一つである鎌倉宮の宮司を紹介され、勉強した縁で始めたもので、岳父とともに居住まいを正し、袴姿でご案内させていただいている」

 繰り返すが、この文章は20年前のものだ。「ホテル・ヘリテイジ」における薪能の公演は30数年続いていることになる。私も数年前に招待していただき、観劇したが、超一流の能楽師の熱演は荘厳で見事だった。観客席には多くの著名人がいた。杉田社長と「ホテル・ヘリテイジ」は多くの人々から愛されている。

 薪能は、もとは興福寺を中心に催される神事能である。陰暦2月の修二会に伴う行事だ。薪を燃やす火の照明で演じたことから「薪能」と呼ばれるようになった。近年は夜間に行われる野外能のことも「薪能」と呼んでいる。

 岳父・前野徹氏の伝統重視の教えを、杉田社長は30数年間の長きにわたって守り抜き、実践している。立派である。今年はコロナ禍のために新企画が検討されているそうだが、来年の復活が期待されている。その時にはまた訪問したい。

 歴史と伝統を重んじつつ新たな挑戦を続ける「ホテル・ヘリテイジ」は、関東地方全体を潤す壮大なオアシスである。
(月刊『時評』2020年9月号掲載)

森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。
森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。