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緊急提言:危機下における明日への展望/小長啓一

一極集中解消と 地方活性化が実現する未来像

島田法律事務所 弁護士(元 通商産業事務次官)小長 啓一
島田法律事務所 弁護士(元 通商産業事務次官)小長 啓一

5年分進行した、デジタル社会の浸透

―――今回の新型コロナ感染症拡大により、今後の日本社会・経済にどのような変化が起こると考えられるでしょうか

小長 現象面で大きく注目すべきは、ソーシャル・ディスタンス(人と人との距離を十分に確保する)推進や〝三密〟回避の反作用として、空間の垣根を超える情報通信が、あらゆる分野においてより一層浸透していることです。職場におけるリモートワークやウェブ会議、医療機関でのオンライン診療、キャッシュレス決済、さまざまなコンテンツのライブ配信、あらゆる商品が購入できるネット通販などが日常化してきており、また、学校の休校によってオンライン授業が進められるなど、ある意味、直接人と会わなくても仕事ができたり、社会生活を送れる比重が格段に高まりました。事象の進展に追いつくために、既存の各種規制も相次いで撤廃・緩和される方向に進むと思います。本来はもっと緩やかに進んでいくと考えられてきたデジタル・トランスフォーメーションが、この苦難を契機に、5年ほど一気に時計の針を進めた感があります。従来の社会の在りようは、このコロナ問題によってデジタル社会のさらなる発展へと、大きく変容していくと言えるでしょう。

 それによって、日本社会積年の課題であった大都市の一極集中解消と地方の活性化が進展していくと期待されます。

―――わが国の大きな政治課題が、このコロナ禍を機に果たされると。

小長 遡れば、1972年に私が仕えた田中角栄元総理は「日本列島改造論」において、大都市圏への集中を是正し、人流、物流を都市から地方へ逆流させて地方・地域社会の過疎化を解消して活性化を図る、という構想を打ち出しました。当時、その有効な手段は新幹線をはじめとする交通インフラであり、その後全国に各種交通網が整備されたのは周知の通りです。これにより日本の人流・物流ネットワークは大いに整備されたのですが、一方で交通網の利便性向上が地方から都市へ、結果的にさらなる人口の流入を招き都市圏の過密を促したという面も否定できません。

―――以後も、時の政権はさまざまな地方活性化策を打ち出してきましたが、特に東京においては今なお人口増が続いている状態です。

小長 しかし今般、この新型コロナウイルスのような未知の感染症が、人口が集中する都市部で拡大しやすく、それにより経済活動縮小のダメージも大きいことが身をもって実感されました。むしろ感染の被害が少ない地方において社会・経済活動が継続できると認識されれば、国民の心理は今こそ地方に向かう可能性が大きいと思われます。

 そして現在の都市と地方を結ぶツールは、先述した情報通信です。ネット活用の一般化によって、仕事、医療、教育、生活全般が、地方においても支障なく送れることも明らかとなりました。通信というツールの充実により、これまでになく地方で生活しやすい環境が整った、と言えるでしょう。5Gの体制が整備されれば、なおさらです。これによりパンデミック終結後は、大都市から地方への回帰が、かつてないペースで加速していくのではないでしょうか。 

 以上のような点を総合し、私は、田中角栄元総理が唱えた〝25万人都市〟、大平正芳元総理が唱えた〝田園都市〟、などに現代のニーズを織り込んだケア・コンパクト・シティ構想やスマートシティ構想の実現が、急ピッチで進むことになるのではないかと考えています。かつての交通網整備の時のような、想定に対する逆流現象は、今回の場合においては可能性は低いのではないでしょうか。いよいよ本格的な〝地方の時代〟到来、その入り口に今われわれは居るのだと思います。