お問い合わせはこちら

【レポート】正面玄関が「ウッド・チェンジ」/農林水産省

待合室。格子の目透かしで実際より広々と感じる。
待合室。格子の目透かしで実際より広々と感じる。

 吹き抜けのホールに足を踏み入れると、木目の美しい化粧梁と化粧柱の存在感に圧倒される。記帳台や受付カウンターの側面も羽目板で飾られている。正面右手の待合室に目を向けると、高知県産ヒノキの集成材を用いた格子が組まれ、スリット越しに光が差し込んで明るい。木材の醸し出す優しい雰囲気が、ホッとする空間を作り出している。リノベーションされた農林水産省の玄関ホールは、一般的な〝役所の建物〟のイメージを大きく変えるものだ。

 「これまで和の文化の紹介のために、組み立て式の茶室が置かれていたのですが、木材消費促進に向けたPRの一つとして4月から〝ウッド・チェンジ〟しました」と林野庁林政部木材利用課長の長野麻子さん。農林水産省・林野庁・水産庁などが入る霞ヶ関合同庁舎1号館は、1959(昭和33)年築。戦後初の本格的耐火建築として建築されたもの。〝官庁〟然とした外観と新しい玄関ホールのギャップは、来庁者に大きな印象を与えるとともに木のあたたかみを再認識させてくれる。実際に職員などからも「森の中にいるみたい」「ぬくもりを感じる」といった感想が寄せられているそうだ。「木材は断熱性や調湿性があり、快適な空間づくりに適しています。また、木材が持つリラックス効果やストレス軽減効果なども科学的に明らかになってきました。近年、こうした効果に着目して、オフィスの木質化などがトレンドになっていますが、農水省でもさらに『ウッド・チェンジ』を推進していきます」(長野課長)。 

 日本では近年、戦後に植林された人工林が伐採の適齢期を迎えている。需要量の多い建築分野では、安価な外国産材や新建材に押されて国産木材の需要が停滞した時期が続いていたが、豊富な国産資源を活用していくことが求められている。木の魅力に触れ、官公庁のみならず、民間でも「ウッド・チェンジ」が進むことに期待したい。

(月刊『時評』2020年5月号掲載)

ホール内観。見事な化粧梁・柱。
ホール内観。見事な化粧梁・柱。