2024/02/02
著者・吉田晶子氏は、国土交通省の前身である運輸省に1988年に入省し、海事局や国際問題担当の大臣官房審議官などのポストに就き、同省の国際関係の仕事に長年従事してきた。米国の弁護士資格も持つ著者は、2010年から5年間ロンドンのIOPCF(国際油濁補償基金)に出向し、法律顧問として働いた経験を持つ。タイトル通り、国際機関の「リーガル・アドバイザー」としての自身の体験をまとめたのが本書だ。
著者が勤務していたIOPCFは、石油タンカーによる大規模事故が起こった際に周辺海域や沿岸に及ぼす甚大な環境被害に対する船舶による賠償を、各国の拠出による基金で補完するという保険制度を運営する国際機関。100カ国を超える加盟国を擁する国際機関の事務局で、著者は事務局長に対し法律上の助言を行う法律顧問として働いた。
言葉の壁もあって、国際機関で働く日本人の数はまだまだ少ない。著者は、イメージだけでない国際機関のリアルな姿を若い世代を含め多くの人々に理解してもらいたいとの思いで本書を著した。書中では、国際色豊かなオフィスの様子、優秀でユニークな同僚たち、ロンドンでの休日の過ごし方などユーモアあふれるエピソードを挟みながら、総会の準備や加盟国政府とのやりとり、各国での訴訟など国際機関で働く日々やリーガル・アドバイザーの仕事の全容が綴られる。設立条約が失効した旧基金の清算、という類例の少ない事案に関わり、関係各国、保険会社らとの係争に臨み、各所の専門家と協力して、問題を整理、解決への道を創造していく様子は地道ながら国際機関での意思決定のプロセスのリアルな姿を描き出している。また、後半では、海洋法等の基礎的な知識も踏まえながら、シーレーンの確保や国連安保理決議の履行といった問題について国際法の実務からみた視点を提示している。
書中で著者が繰り返し述べているように、「国際化の進展」や「グローバル化」が進んでいても、国際社会の実態は、主権国家単位で成り立っており、その関係は国際法というルールによって規律されている。今日の各国の経済社会が、国境を超えて密接につながっているからこそ、こうした仕組みを理解し、ルールを作成し、運用する側に回ることが重要だ。日本はこれまで国際社会のパワーバランスの恩恵により、〝ルールを作り、運用する側〟にいるが、それは不断の努力無くして永遠に続くものではない。国際環境の変化の中にあってこそ、安定した多国間の枠組みに支えられた国際環境を作り、「法の支配」による国際社会の形成に貢献していくべきだと著者は訴えている。