2024/08/01
2011年に霞が関の若手官僚から自治体首長に転身した著者の最新作。著者は自治体運営の在るべき姿について「自治体3・0」の具現化を提唱している。国が進めるSociety 5.0を想起させる言葉だが、著者は「自治体3・0」なくしてSociety 5.0は地域社会の課題に対応できないと指摘。無為無策が1・0、市民のニーズに応えるのみが2・0であるのに対し、市民も含めて問題を皆で解決する自治体が3・0であり、市民が行政ととともに課題解決に取り組み、自発的にまちづくりに参画することが今後の自治体運営に不可欠だと主張する。
地域社会の質の向上に向けて、市民の能動的な参画が必要なことは言を俟たない。だが「自治体3・0」は、元気なリタイア組はもちろん、最も地元の関わりに縁遠いと言われる現役男性世代も組み入れる点に特長がある。文中、月1回開催される「いこま男飲み会」は、自身が住む町の問題点に目を向け、コミュニケーションを取りながら解決へ向け意識を振り向けるきっかけとして紹介されている。「地元に飲み友達のいる会社員はほとんどいない」との指摘は確かにその通りだろう。地元の問題を誰もが自分ごととして捉えるには、さまざまな人が集うための仕掛けが必要だ。この点、市長が繰り出すコミュニティづくりの仕掛けは多種多彩で、市民のあらゆる層を網羅しているようだ。実際に、「市民みんなで創る音楽会」は盛況を博し、地元が主催するイベント運営の新たな道筋を示した。
他方で、市役所の人事評価や職員育成にも一定の紙幅を割いている。生駒市の職員採用率は20人以上採用する自治体としては全国1位、「地域に飛び出す公務員の採用」をモットーに、まさに採用改革の只中にある。市民が官民を問わず共創体制を組む以上、行政は市民の信頼に足る存在でなければならない。行政への信頼を築いているからこそ、「市民も汗をかいてください」と言えるのだ、との論には筆者の深い自信がうかがえる。
まちづくりへの参画と聞くとボランティアをイメージする場合が多く、生駒市もボランティア活動では日本一だという。とはいえ、関心を向けるべきはこの先、ボランティアをビジネスへ進めることにある。このテーマをいかに実践するかが、「自治体3・0」を体現する過程で、生駒市がさらに他の自治体のモデルケースとなるネクストターゲットになるだろう。
(月刊『時評』2020年9月号掲載)