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【本の紹介】「令和への提言」政と官――その権限と役割

産経新聞出版 定価:本体1,500円+税
産経新聞出版 定価:本体1,500円+税

 数年前に相次いで起こった不祥事から立ち直ろうとする霞が関に対し、2018年11月、自著『役人道入門 組織人のためのメソッド』(中公新書ラクレ)を復刊してエールを送った久保田勇夫(西日本シティ銀行会長)氏。同書で、「『官』の組織自体がかなり劣化しているのではないか」と嘆いていた元財務官僚、元国土事務次官を務めた久保田氏が再び〝政と官〟をタイトルに単行本を上梓した。
 とはいえ、著者自らまえがきで述べているように、本書に収録されているテーマは幅広い。産経新聞地方版のコラム「一筆両断」に掲載された小論などをまとめた本書で中心となっているのは、1966~2000年、著者が〝役人〟として携わり、その目で見聞きした事象やエピソード。それはつまり、わが国が先進国に仲間入りした時代の国際金融・経済政策における歴史の断片と言っても過言ではない。
 「時代についてのわが国自身の正しい認識を形づくる為に、その見聞きしたこと、行ったこと、感じたことを書き残しておくべきではないか」と、著者は執筆の動機を記している。
 大蔵官僚として、久保田氏が携わった事柄は、本書に挙げられているだけでも「プラザ合意」「消費税導入」「日米構造協議」「省庁再編」など時代の転換期となった大きな仕事ばかり。第2章「回想の政治家たち」では、数々の現場で何が起こっていたのか、田中角栄、竹下登、宮澤喜一ら時代を代表する政治家とのエピソードを交え、いきいきと描き出す。省庁再編をめぐる記述では、現在も続く〝負の影響〟が鋭く指摘されている。
 第4~7章では、TPPやトランプ時代のアメリカの経済政策についての予測、久保田氏が留学していた英国のブレグジット問題の背景や対応について、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立とアジア経済について、金融緩和と構造改革、財政健全化など現在進行中の経済事象についても著者の考察が綴られる。
 「次世代の適切な政策の立案に役立つ」ことを願って著された本書。政策立案を担う官の後進のみならず、一般読者にとっても有意義な内容となっている。