2023/06/14
昨年9月のデジタル庁発足後、その動向は国民、産業界、そして自治体の注目の的だ。経済・社会・国民生活のほぼ全てにおいてデジタル化への移行促進が求められる現在、デジタル化推進の司令塔となるデジタル庁に対する期待は大きい。今回、改めて組織概要とともに、同年末に策定された重点計画における各種デジタル改革のあらましを冨安統括官に解説してもらった。
デジタル庁統括官
冨安 泰一郎
デジタル庁の仕事
2020年に新型コロナウイルス感染症が拡大すると、給付金支給の遅れ、国と地方の間および行政機関間のシステムの連携の非効率、押印等アナログ文化の残存によるテレワーク移行の遅れなど、わが国ではさまざまな面でデジタル化の課題が顕在化しました。遡ると2000年に政府はIT基本法を策定し、それ以降インターネット等のネットワーク環境の整備について相当程度進めてきましたが、その間のデジタル技術の大幅な進展に伴い、新たなサービスや付加価値を生み出すものとしてデータの活用・連携の重要性が格段に増すとともに、従来各主体が単独で進めてきたシステム整備についても、標準化や共通基盤活用などシステム整備全体を俯瞰して方向性を考えることの必要性も大きくなりました。
このような情勢を背景に20年9月には菅義偉総理(当時)から1年後にデジタル庁を作るという指示を受け、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を策定し、各種法律の整備を進め、翌21年9月にデジタル庁発足に至りました。
ではデジタル庁はどんな仕事をするのか。簡単に言えば、国の情報システムについて企画・立案を行い、重要なシステムは自ら整備する、デジタルの共通基盤「ガバメントクラウド」を構築し地方公共団体のシステムの移行調整を図る、ID・認証の基盤であるマイナンバー制度全般の企画立案を一元的に取り扱う、民間・準公共部門のデジタル化支援、データ利活用に向けてデータオーソリティとしてデータ戦略の策定と運用・ベースレジストリの整備、サイバーセキュリティ専門チームによるデジタル庁のシステムの検証・監査、DFFTの推進、そして、デジタル人材の確保となります。そして昨年12月24日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、岸田政権の重要施策であるデジタル時代に相応しい構造改革に向けた横断的課題の一体的な検討や実行を強力に推進する、という役割も明記されました。具体的には同年11月に発足した〝デジタル臨調〟の事務局として、デジタル構造改革に向けた検討を行っています。またデジタル田園都市国家構想の実現に向けて、デジタル技術を地域の暮らしや産業に実装するに際し、重要な役割を担うことが求められています。
予算に関しては、デジタル庁に一括して計上された国の情報システム予算が、令和4年度、約4600億円となり、他の政策的経費なども含めたデジタル庁全体で約4700億円となります。情報システム予算のうち、給与や補助金申請など各府省共通で利用するシステムやガバメントクラウドといった基盤となるシステムなど30以上のシステムについては、デジタル庁が自ら整備・運用を行います。各府省が運用するシステムの予算については、次に述べる「情報システムの整備及び管理の基本方針(以下、情報システム整備方針)」に沿っているかどうかなどを確認しつつ、各府省に配分します。
まとめると、情報システムの整備に際し、「徹底したUI(ユーザー・インターフェース)・UX(ユーザー・エクスペリエンス)の改善と国民向けサービスの実現」「デジタル社会の共通機能の整備・普及」「包括的データ戦略の推進」を具体的な使命として、デジタル社会の形成に向けたトータルデザインを行うのが、デジタル庁が目指す姿です。その結果、「デジタルの活用により、一人一人のニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」「デジタルを意識しないデジタル社会」を実現することがミッションであると認識しています。
情報システム整備方針(四つの重点注力分野)
デジタル庁は、デジタル庁設置法に基づき、昨年末、情報システム整備方針を策定いたしました。これは、社会全体のデジタル化に向けて、国・地方公共団体・独立行政法人等の関係者が、効果的に協働できるように、特に情報システムの観点から重要な方針を提示するものです。情報システム整備方針は、四つの重点注力分野で構成されます。
まず、「良いサービスを作るための標準の策定・推進」。利用者視点で良いサービスを作るために、サービスデザイン、ユニバーサルデザインを考慮したUIの改善、相互運用性の確保をするためのデータ整備、セキュリティなど、各情報システムを横断して統一すべき技術標準や進め方について、デジタル庁自身が各プロジェクトで実践しながら、継続的改善を行います。
次いで「良いサービスを支える共通機能の整備・展開」。システム等への重複投資を排除し統一性を確保することで、効率的に利便性の高い情報システムを整備します。そのためデジタル庁では、ガバメントクラウド、ガバメントソリューションサービス、ベースレジストリ、ID・認証の各共通機能を整備するとともに、各機能を利用するためのガイドライン等を作成します。
三番目が「緻密な改善を実現する体制強化」です。これまでは目指す姿を描いても実働部隊の確保が不十分だった例がありましたので、今後は、制度・業務・情報システムの三位一体での改善を推進するPM(プロジェクトマネージャー)等の人材をデジタル庁および各府省で確保育成し、各プロジェクトを推進していきます。
最後が「推進力を強化するためのガバナンス手法の見直し」です。デジタル庁は、推進、支援、調整など〝アクセル〟や〝潤滑油〟として伴走型のサービス提供主体となることを目指します。その際には、全方位的な一律管理をするのではなく、重要なプロジェクトに対し重点的に推進支援を行いたいと考えています。
以上のような業務を担うべくデジタル庁が設立されました。庁全体としては、昨年12月時点で、官僚350人強、民間人材が約200人で総勢約600人となっております。トップのデジタル監には民間の石倉洋子氏にご就任いただき、同時にアーキテクト、デザイン、テクノロジー、インフォメーション・セキュリティ、プロダクトについてそれぞれCXOという形で民間専門人材の方に加わっていただいています。
官庁の局に該当するグループは四つ、官房にあたり総合政策を担当する「戦略・組織グループ」をはじめ、「デジタル社会共通機能グループ」、「国民向けサービスグループ」、「省庁業務サービスグループ」があります。共通機能グループには、デジタルを実装する上で共有すべき基準・標準を担うCo E(Center of Excellence)チームを設け、民間専門人材の人に多く入っていただき、同チームの仕事の内容を各プロジェクトに反映させていくという仕組みを取っています。