2023/06/14
新法に基づくそれぞれの位置付け
デジタル改革関連法の一つ、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」は自治体システムに大きな変革を促す内容です。まず、自治体のシステムは〝標準化基準に適合するものでなければならない〟という義務規定になっています。第6条第1項には、所管大臣は対象事務について基準を定めなければならないとあり、各制度を所管する霞が関の府省庁がシステムの「標準仕様書」を作成し、全国の自治体のシステムはそれに準拠しなければなりません。
同法第3項では、この標準仕様書を作るときに自治体や関係者の意見を反映させることを定めており、関係者の意見を聞きながら標準仕様書を策定しています。各制度所管の府省庁では、自治体や自治体システムベンダーから構成された仕様書策定の検討会議を設置しています。また、自治体職員とオンラインベースで意見交換をするためにデジタル庁が設置した「デジタル改革共創プラットフォーム」で随時、情報提供や意見交換を行っています。総務省での検討状況を例にとれば、自治体システム標準化検討会のなかに税や住民記録、選挙人名簿管理といった個別事務についてそれぞれ検討部会を設置し、そこで協議を重ねながら検討しています。
自治体システム標準化の目的は大きく二つあり、一つ目は「機能の標準化による住民向けサービスの共通化とコスト削減」、二つ目は「新たな機能の提供による住民サービスの向上」です。コストは3割減らすという目標数値が掲げられましたが、これは各自治体がこれまで仕様を作って、ベンダーが受託後に個別構築していたものが、共通化されたシステムの利用にシフトする点に加え、制度改正の都度に個別のシステム改修が不要になること、さらにクラウドベースになれば複数の自治体のシステム運用も共通化できる可能性などが期待されています。各制度所管府省ではまず一つ目の目的であるサービス共通化とコスト削減に資する標準仕様書1・0版を策定しているところで、住民が全国どこに行っても同じ行政サービスを受けられる姿を目指しています。
標準仕様書の策定進捗
この1・0版の標準仕様書のイメージは、いわば〝最大公約数〟。主要ベンダー各社のパッケージシステムをノン・カスタマイズで入れる形に近いイメージでしょう。一方で従来パッケージと大きく異なる部分もあります。例えば、住民記録システムの標準仕様書1・0版では〝文字基盤の活用〟が要件に入っています。従来はベンダーがそれぞれ持つフォントを使用していましたが、今後はIPA(情報処理推進機構)が作成した6万字弱の文字基盤を採用します。これにともない、ベンダー側では各ディクショナリーと文字基盤への同定作業が必要になります。また、自治体では外字などエディタを使って自ら作成した固有文字の扱いについて整理しなければなりません。
新法で仕様共通化の対象として義務付けられたのは住民基本台帳・税・社会保障など17分野の〝基幹業務〟です。ここには大規模な住民情報のデータベースを持つ分野が全て含まれており、全体で市場規模が5000億円程度といわれる自治体システムの中で同分野が占める割合は7~8割程になるのではないでしょうか。加えて、印鑑登録などの基幹系に付随してきたサブシステムも標準仕様書に追加されたことからスコープがやや広がってきました。21年9月には第1グループの標準仕様書が発出され、残る第2グループを待って22年夏には17分野全ての標準仕様書が出揃う予定になっています。
17業務に跨る分野横断の共通事項にはセキュリティやクラウド・コンピューティング・サービス関連技術、システム間でのデータ連携が含まれ、これらの仕様についてはデジタル庁が担当しています。自治体システムベンダーが加盟する全国地域情報化推進協会(APPLIC)では既に、データベースから他システムへ情報を移行する際の中間標準レイアウトや、システム間データ連携用の地域情報プラットフォームというAPI仕様を作っているので、これらをベースとして拡充する作業が進められています。
総務省は自治体へ向け、DX手順書の一部として「自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書1・0版」を公表しました。まだ一般的なシステム構築フローをまとめただけの内容なので、今後は具体的な作業へ落とし込めるような手順書にするべくアップデートしていかねばなりません。