お問い合わせはこちら

【時事評論】関東大震災から100年

インフラの再設計・再構築を

 今年9月、死者・行方不明者10万人以上という未曽有の被害をもたらした関東大震災からちょうど100年となる。

 関東大震災は、人的・物的被害のみならず、支払い不能となったいわゆる震災手形を大量に発生させるなど、経済的にも多大な影響を与えた。

 そうした関東大震災が発生した9月1日にちなんで、毎年9月1日は「防災の日」とされており、同日を含む1週間は「防災週間」とされている。

 1960年の閣議了解によって9月1日が「防災の日」とされたが、その後1982年に同閣議了解を廃し、新たな閣議了解によって「防災の日」と「防災週間」が設けられたものである。

 その趣旨は「政府、地方公共団体等防災関係諸機関をはじめ、広く国民が、台風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波等の災害についての認識を深めるとともに、これに対する備えを充実強化することにより、災害の未然防止と被害の軽減に資する」こととされ、地震に限らず、さまざまな災害の防止と被害軽減を念頭においてる。

 具体的には、「防災週間」において「防災知識の普及のための講演会、展示会等の開催、防災訓練の実施、防災功労者の表彰等の行事を地方公共団体その他関係団体の緊密な協力を得て全国的に実施する」ことになっている。

 言うまでもなく、わが国は、種々の災害への警戒を怠ることができない。

 その国土はプレート境界の上に位置する「地震大国」であり、故に津波への警戒も怠ることはできず、火山の噴火もある。さらに台風被害を受けやすい位置にあり、また「これまでに経験したことのないような大雨」という警報が何度も出される豪雨地域となっている。近時では、「災害級の酷暑」にもたびたび見舞われている。

 常に災害と向き合わなければならない国として、広く人々が防災意識を高め、避難訓練等を繰り返すことも重要だ。

 しかし、地球温暖化に伴うと思われる気象の激しい変化や東日本大震災の経験などを鑑みると、人々の意識=ソフト面のみならず、インフラ面=ハード面からの対応もまた重要ではないか。

 停電、断水、通信途絶、等の事態に備えるためにはハード面からの対応が第一だ。地震に対しては、耐震性の不十分な建物は、早急な対応が望まれる。

 また、都内でも一部に残る区画整理が不十分なところでは、延焼等の被害を食い止めるための早急な整備・整理が必要だ。

 さらに、東京の地下鉄の一部の駅では、普段から人々の動線が混乱しているようなところも散見され、巨大地震時には阿鼻叫喚の被害拡大が憂慮される。「人災」と呼ばれないような手当が求められる。

 豪雨等の気象災害については、浸水被害の想定などに基づき、ダムや堤防、排水システムや調整池等のインフラ整備を的確に進めるべきだ。

 この点について、東京都では1986年の「今後の治水対策のあり方」に基づき、時間当たり50ミリの降雨への対処を目標として総合的な治水対策を進めていた。

 その後、従来の想定を上回る被害が発生したことなどを踏まえて、2014年には「東京都豪雨対策基本方針(改定)」を定め、目標降雨を区部で時間当たり75ミリなどとして調整池整備等を進めている。

 現実の変化に対応して、防災目標を変えて防災インフラを整備していく東京都の取り組みは方向性としては正しい。

 しかしながら、それでも現実に追い付いていない恐れが大きいことも現実だ。実際、都内では時間当たり100ミリを超える降雨も発生している。

 今年7月、国連の世界気象機関のターラス事務局長は「異常気象は、人間の健康や生態系、経済、農業などに大きな影響を与えている」と指摘した上で、「ニューノーマルになりつつある事態に社会が対応できるよう、取り組みを強化する必要がある」と述べている。まさに、これまでの経験・知見が無効となるほどの変化に私たちは直面しているのだ。

 地震や異常気象等の災害被害を抑制するため、これまでの想定を超える災害が現実となっていること(ニューノーマル)を直視し、そもそもの災害想定から見直して、こうした災害に関わるインフラの在り方を再設計・再構築する必要がある。

 もちろん、対策が必要であるのは東京に限らないが、特に、東京で災害が発生した場合、人的・物的被害に加えて、経済や行政における機能不全など、懸念される影響は甚大である。

 災害防止に関するハード面での対応となれば費用が問題となるが、当然ながら、防災費用だからといって無制限にコストをかけるわけにはいかない。

 人口や都市機能の実態を踏まえ、費用をかけることに合理性があるところで、その合理性の範囲内において、優先順位を明確にして対応を進めるべきだ。

 その際、防災関係業務が市場に委ねることのできない公的セクターが担うべき仕事であることを鑑みて、必要なコストは一時的な政治的都合によるバラマキに優先して確保されるべきだ。

 政治と行政とは、国家の第一義的責任が何であるかを忘れてはならない。
                                                (月刊『時評』2023年9月号掲載)