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【時事評論】2024年を展望する

日本の民主主義が試されるとき

pixabay
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 2024年は、日本の民主主義が試される年となるのではないか。

 日本の経済は、物価高が続く中で、金融緩和政策に過度に依存してきたツケがたまっている。

 政治は、誤解を恐れずに言えば、まるで「御用聞き」と堕して財政を拡大させ、国家財政はとても先進国とは思えない危機的状況にある。

 社会は、同朋意識が薄らぎ、それぞれのことだけで手一杯だという人々が増え、理解しがたい犯罪も見られる。

 ことの重大性を認識する関係者が、陰に陽に続けてきた努力による綱渡りも、さすがに限界を迎えつつあるように見える。

 こうした状況にあって、歴史的な岐路に立つ日本の民主主義が賢明な道を選択できるかどうかが問われている。

 1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センは「飢饉は民主主義の中では起こらない。なぜならば、責任ある政府は大規模な食糧難を回避するため全ての手段を尽くすからだ」という趣旨を述べ、民主主義が飢餓との戦いの「武器」となることを主張した。

 歴史を振り返れば、確かに専制的な国家において飢餓は多く発生したと言えるかもしれない。

 パンがなければケーキを食べればよいと嘯いたという都市伝説を生んだマリー・アントワネットも、民主主義に生きた統治者であったなら、人々の飢餓にもっと真剣に向き合ったかもしれない。

 しかし、他方で、民主主義も、多くの失敗を重ねてきたことは間違いがない。

 アマルティア・センの主張には「民主主義が健全に機能しているときには」という条件を付ける必要がある。

 こうした観点からすると、現下の日本の民主主義が抱える課題が見えてくる。

 いま、日本の民主主義は、人々を飢饉から救うだけではなく、人々の欲求に応えて「これまでと変わりない生活」「さらに豊かな生活」までも保障しようとしているようにも見える。

 もちろん、政治的理想として、国民の豊かさを追求することはよい。

 問題は、そのための具体的政策が、国家の衰退・破滅へと続くようなことになってはいないか、そのリスクを糊塗するポピュリズム的な傾向がないか、ということだ。

 日本国憲法25条は、人々の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障しており、そのための具体的措置として生活保護制度が存在している。

 この生活保護制度を超えて、何かしらの「苦難」があれば国家が給付金や補助金という形で支援を行うことが常態化し、人々はそれを当然視するようになっている。

 これを「甘え」と言えば言葉が過ぎるかもしれないが、変化への対応能力は衰え、ユデガエルのように日本は衰退の道を進んでいないか。

 当たり前のことだが、フリーランチはない。

 誰かが、そうした支援の財源を負担することになるはずだが、それは国の借金という形で、将来世代という「物言わぬ人々」=選挙権を現時点で持っていない人々へ押し付けられている。

 生まれながらに多大な借金を背負わされる世界へと生れ出ることをよしとしないからこその少子化だという指摘もある。

 しかし、こうした大きな矛盾に目を向けず、日本の民主主義は、人々の目先の欲求にばらまきで応えてきてはいないか。

 他方で、国民が負担すべき財源については、目を背けがちではないか。防衛費にせよ、少子化対策にせよ、国家としての大事に費用がかかることは当然であり、その費用は国民が負担するほかはないはずだ。

 ブルネイのように、石油・天然ガス資源に恵まれて、所得税も徴収せず、医療も教育も無料という国とは、日本は違う。

 第二次世界大戦において、ナチス・ドイツに対抗して「自由フランス」の旗を掲げて亡命先のイギリスからフランスの団結を呼び掛けたシャルル・ド・ゴールは、その後フランスの大統領となった。

 彼は「偉大さを伴わないフランスは、フランスにあらず」と述べて国家の発展を志向する一方で「リーダーは、高くを狙い、大きく見、広く判断する。従って、自分自身を狭き議論をする並の人々から離れさせるのだ」と言って、政治の付和雷同をよしとしなかった。

 これを非民主的だと批判することは容易だが、その対極にあるポピュリズムに日本の未来があるとも思われない。

 世界最先端の民主主義と称されたワイマール憲法の下で、目先の経済的苦境から逃れたいという人々の欲求に「民主的」に応えて台頭したのがナチスであったが、その結末は国家的悲惨であった。

 高く、大きく、広い視野から、政治が、日本の困難とリスクを正直に示して苦しいけれども賢明な判断を国民に求め、国民がこれを受け入れることを、日本の民主主義は成しうるであろうか。

 それが、日本の民主主義に突き付けられている問いではないだろうか。

 2024年の年明けに際して、この試練を乗り越えて、日本の民主主義が未来を切り拓く年になるように期待したい。
                                                 (月刊『時評』2024年1月号掲載)