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【時事評論】日本で世界初の最先端都市構築を目指せ

災害避難時のコロナ感染に最大限の警戒を

pixabayより
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 5月27日、改正国家戦略特区法が成立した。中核となるのは、「スーパーシティ」構想の実現に向けた制度整備にある。数年前から構想されてきた「スーパーシティ」が具体的に動き出したと言えるだろう。日本は何としても、そのモデルを構築させたい。同様の社会実装を図るプロジェクトが世界各都市で展開され、しかし具体的な実現例はまだ一つもない、とされているからだ。

 内閣府によると、「スーパーシティ」とは、さまざまなデータを分野横断的に収集し、整理し提供する「データ連携基盤」を軸に、地域住民等に様々なサービスを提供、住民福祉・利便向上を図る都市、としている。ビッグデータによる、あらゆる社会事象のデータ化とAIによる最適化に向けた解析によって、行政手続き、交通・物流、防災、教育、医療・社会福祉などの面で、生活者に対し高次元のサービスが提供される、新しい都市だ。当然、国と地方を中心に、民間事業者、学識の知見を結集させた産官学連携体制が望まれる。今後、日本が国際競争力で優位に立つための、重要なカードとなり得るテーマである。

 実現に向けて乗り越えるべき課題も少なくないが、ことに日本において議論が分かれるのは、個人情報の管理についてであろう。日常生活の多様な場面をデータとして収集することが前提となるため、特にプライバシー問題に過敏な傾向にある日本では、個人情報について過剰とも言える管理が求められがちだ。各自治体で事業計画を立案するにあたり、自治体、事業者、内閣府を交えた区域会議を経て住民合意を取り、基本構想を総理に提出するプロセスが導入された。地方自治体においては、住民に対する情報発信と丁寧な説明がこれまで以上に重要な要素となる。「スーパーシティ」構想の成否は、公共に対する住民の信頼度にかかっている、と言えるのではないか。

 2017年にカナダ・トロント市が掲げたデジタル都市構想を、グーグル系列の企業が受託したものの、住民の個人情報を私企業が収集・管理することに住民が反発、今年5月に同社は撤退した。この事例から学ぶべきことは多い。「スーパーシティ」に企業の参画は不可欠だが、データの帰属と管理には行政が一定の関わりを持ち、公益性のための官民連携であることに理解を得る必要がある。むろん利便性を享受するためには、住民一人一人がより良い地域社会を構築するために公共団体を信頼してデータ管理を任せるという姿勢が欠かせない。例えば今般の新型コロナ対応において、マイナンバーと口座がひも付いていれば特別定額給付金の給付がもっと迅速に進んだはずという指摘も多く寄せられた。この点は現在、ひも付け義務化の法案が検討されているが、メディアなどでは今般の経験を経てもなお、国による管理を危険視する論調がある。日本の技術力を駆使すれば、データの収集、管理、分析、そして社会実装までは進展が期待できるだろう。やはり「スーパーシティ」成否のカギは、未来の社会をつくるのだ、という国民個々の意識となる。そして期待を寄せられた暁には、それに応える官民連携であってほしい。

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 今年も台風をはじめとする水害・土砂災害の季節がやってくる。近年、夏から秋にかけて全国各地で大規模水害等が発生し、住民避難などを余儀なくされる。加えて今年、避難所における新型コロナウイルス感染拡大防止への対応という難題が加わった。避難所での〝3密〟を回避するため、自治体などはより一層工夫を迫られる。具体的には段ボールによる避難スペースの間仕切り設置や、消毒液、体温計等の備蓄などが必要とされる。過去の災害避難の折に指摘された、障害者対応や授乳室の設置などの改善点とともに、こうしたきめ細かな対応を図る必要がある。

 自治体の負担は想像に難くない。国には、災害発生時、速やかな支援を行い、減災と復興、避難所での健康と衛生を保つための最大限のサポート体制が求められる。自治体では、事前に国の指針や専門家の助言を取り入れ、コロナ対策も組み込んだ避難訓練などの実施も推奨したい。その折には、過去に水害を体験した他の自治体にアドバイスを求めることもできないだろうか。県などが仲介し、相互に教訓と情報の共有を図る体制が各地で構築されれば一定の被害軽減に資すると思われる。先進的な連携モデルなどを他の地域に向けて発信するプラットフォーム構築なども望まれる。企業やNPO、医療も含めた防災と新型コロナ対策の包括的ネットワークが待たれるのではないか。

(月刊『時評』2020年7月号掲載)