2022/02/02
2月中旬現在、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的な蔓延に終息の気配が見えない。中国湖北省を中心に、2月19日段階で感染者数は7万人強、死者は2000人超に達し日本国内の死者も発生した。まずは一刻も早い終息が望まれる。さらなる感染力悪化の可能性が有る中で、日々、水際で検疫体制にあたっている関係機関の努力に敬意を表したい。
周期的に発生し、人類の手元にワクチンなどの有効な対策が無い新型ウイルスは、まさに国際社会共通の脅威と言えるだろう。記憶に新しいところでは、2002年11月に中国広東省から発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)は翌03年7月の終息宣言までに8000名以上の感染者と774人の死者が発生した。2012年6月にサウジアラビアで最初の死亡者が発生したMERS(中東呼吸器症候群)は短期間に急激に感染者が広がるものではなかったとされているが、致死率は35%と非常に危険なタイプだった。いずれも新型の高病原性コロナウイルスだった。さらに、2009年4月、メキシコに端を発する豚由来の新型インフルエンザ(A型H1N1)は、急速に感染拡大し6月にWHOは警戒水準フェーズ6(パンデミック(感染拡大)フェーズ)を宣言、公表によると約1万8500人が死亡したという。
これらの事例は、人類にとって未知の新型ウイルスが世界中の国・地域を問わず、今後も必ず発生することを示している。またアフリカを中心に、致死率が非常に高いエボラ出血熱ウイルスも周期的に感染拡大している。大規模自然災害などと並び、既知・未知を含めた感染症は、各国連携で対応を図るべき脅威であることが認識された。
COVID-19に関してはここまで、発生源とされる中国政府の対応、また検疫体制をはじめとする日本政府の対応は、それぞれ功を奏した点、課題として改善されるべき点が多々混在し、終息後に多角的な観点で検証が進むであろう。と同時に、感染拡大中に停滞したさまざまな経済事象の早期回復を図る必要がある。
感染拡大の時期が、中国の春節の時期と重なり、人々の大規模移動による感染拡大も懸念されたが、各種の制限や規制などにより例年のような大移動はほとんど見られなかった。この間、過去数年にわたり右肩上がりを見せてきたインバウンド(訪日外国人旅行者)に甚大な影響をもたらした。通常、インバウンドが多く訪れにぎわいを見せる観光地が閑散とし、早期回復を求める店舗、やむなく操業停止を決断したバス会社などの苦境がたびたび報道された。平成30年度観光白書によると、2017年時点のインバウンド国別内訳では、全体の25・6%を中国が占めているほど、訪日観光産業における中国の比重は高い。
従って、終息後に速やかに、もちろん空港・港湾などでの安全確認に万全を期した上で、中国からの受け入れ再開に全力を尽くすべきだろう。国から交通機関に対する補助も示されているが、可能な限りこうした支援を広げ、回復に努めたい。と同時に長期的には、中国、韓国、香港、台湾からのインバウンドで全体の4分の1に達する地域的偏在を解消するよう、一層力を入れるべきだ。人口13億人超のインドから日本を訪れる観光客がまだ全体の0・5%に過ぎないことなどを鑑みても、さらなる市場開拓の余地がある。国別の均霑(てん)化が図られれば、今回のような場合にリスクヘッジにもなる。
ゆるぎない体制でオリ・パラの運営をアピールせよ
また、製造拠点としての中国がこの間、機能停止したことも経済に大きな影響を与えている。日系企業の進出が著しい東アジア、東南アジアでは近年、自然災害を想定したリスクマネジメントの重要性が高まりを見せているが、場合によっては数十日・数カ月にわたる感染症の蔓延は、災害とはまた異なる側面からのマネジメントが必要だ。個別企業ごとの対策では限度があるため、今回の検証とともに、今後に向けた産官学連携に基づく協議体制なども求められるのではないだろうか。
またいずれにしろ平素の空港、港湾などにおける検疫体制強化が必要だ。平常時に利用者個々に検疫を行うのはコストも労力も膨大となるだろう。こうした点にこそ、AIの導入・活用を推進することはできないだろうか。感染症と一口に言ってもその特性は千差万別であることから、これも容易ではないだろうが、人的省力化と合わせ、感染拡大期に医療関係者や現場の検疫官の感染防止も懸念されることから、AIの実装を図る上で重点分野に挙げるべきだろう。また、政府が掲げた回遊型の病院船の発想などは非常に有効だと思われる。アイデアでもいい、危機を経験することで、効率的、効果的な対策を広く議論することが重要だ。
何よりも、2020東京オリンピック・パラリンピックの開催を間近に控えている。さまざまな不測の事態が想定されるし、残念ながらCOVID-19の影響がまだ残っていないとも限らない。諸外国から多くの関係者、観客が来ると想定され、その受け入れ対策に官民挙げて全力を費やしてきた。この大会は東日本大震災からの復興五輪という位置付けもある。であるならば、直前に、感染症の脅威に見舞われながらも国際ビッグイベントを安全かつ滞りなく開催、運営できることを国際社会にアピールする機会にもなるのではないか。
(月刊『時評』2020年3月号掲載)