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【時事評論】近づく総選挙の足音

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与野党とも国家ビジョンを示して戦え

 総選挙の足音が近づいている。

 現在のところ、菅総理は、新型コロナ感染症対策に注力すべきであり衆議院の解散は考えていないとしている。

 しかし、2017年10月22日に行われた第48回総選挙から4年、衆議院の解散の有無にかかわらず、今秋までに第49回総選挙が必ず行われる。

 政権支持率に関する世論調査などがいっそう注目される所以でもあるが、その政権支持率は、現在の新型コロナ感染症に関する国民の関心の高さを反映して、政府の新型コロナ対策への評価と連動する傾向が強く示されている。

 数カ月のうちに実施される総選挙も、その時点における政権の新型コロナ感染症対策への評価という色彩を強く持ちそうだ。 

 しかし、次期総選挙の「争点」が、新型コロナ感染症対策への評価に尽きてしまうなら、将来に向けて国家・国民のために考えるべき論点の多くが見失われてしまうのではないか。

 もちろん、新型コロナ感染症の拡大があぶりだしてきた数々の問題点は重要なものであり、対応を進めることも重要だ。

 例えば、保健所システムの再構築、医療体制の在り方に関する再検討、国と地方の連携の効率化、行政システムのデジタル化の推進、ワクチンや治療薬の開発を含む研究開発力の強化、等々の論点を新型コロナ感染症は浮かび上がらせてきた。

 これらの論点については、今年度予算において手当てされ、あるいはデジタル庁のような新たな組織が創設されるなど、すでに対応が進められつつあるところもある。

 他方、政府の新型コロナ感染症対策の裏側で、国の財政問題という国家運営の基礎に関する問題も浮上している。

 財務省によれば、国債などの残高を合計したいわゆる「国の借金」は2020年度末に過去最大の1216兆463億円に達している。

 前年度末からの1年間で、101兆9234億円の増加であり、過去最大の増加額となっている。新型コロナ感染症対策で、3度にわたり大型の補正予算を編成したことが影響している。

 諸外国においても、新型コロナ感染症への対応のために財政負担が増加する傾向はあるものの、過去からの累積債務の増加傾向もあっ
て、日本が圧倒的に突出した「借金漬け」となっている。

 こうした状況の下、財政再建問題が、次期総選挙の争点になるかどうかは注目すべきポイントの一つだろう。真に国家・国民のことを思うなら、避けては通れないはずだ。

 以上のような新型コロナ感染症にまつわる諸課題が争点とされることは、否定すべきではないし、むしろ歓迎すべきだろう。

 問題は、これらだけを争点としていいかどうか、他に見逃してはならない大きな争点があるのではないかという点だ。

 何よりも、総選挙は政権選択のための選挙だ。そうであるならば、「いかなる国家を実現したいのか」という基本的な国家ビジョンこそ明確な争点とすべきだ。

 今年4月、次期総選挙の前哨戦とも言うべき衆参3選挙(衆院北海道二区、参院長野、参院広島)があった。

 与党議員(元農林水産相)が収賄罪で在宅起訴され議員を辞職したことに伴う衆院北海道二区は、与党の「不戦敗」、野党共闘の勝利となった。

 野党議員(元国土交通相)の死去を受けた参院長野補選は、「弔い合戦」で野党の勝利であった。

 2019年参院選をめぐる公職選挙法違反事件で元与党議員の有罪確定=当選無効に伴う参院広島再選挙は、保守地盤といわれる広島でも買収への批判は強く、接戦の末、野党勝利となった。

 いずれの国政選挙でも、国家ビジョンが争点として語られることはなく、カネの問題や「弔い」というレベルでの戦いであった。

 次期総選挙が、そうしたレベルでの争点しかないようであれば、日本に明るい展望は開けないだろう。むしろ、選挙後、国家としての進路が不明なまま、五里霧中の国家運営となってしまう危険性が高い。

 国家ビジョンを掲げて政権選択の選挙に臨むという姿勢を、与野党ともにしっかりと持つべきだ。

 いま、日本は、過去の延長線上で国家運営を行うことができない状況にある。

 国際的には、中国の台頭を受けて、米中関係が大きく変化しており、日米同盟を安全保障の基軸とする一方、中国との経済関係を深めてきた日本は、際どい隘路を進まなければならない。

 国内に目を転じれば、先に触れた財政問題の他にも、少子高齢化のさらなる進展、エネルギー環境問題の切迫、経済の停滞と生産性問題、経済格差と貧困の拡大、等々、明確な価値基準を持って戦略的に解決に取り組むべき課題が山積している。

 こうした状況にあって、与野党とも、諸課題に取り組む上での価値基準となる国家ビジョンを掲げて総選挙に臨むことを国家・国民のために期待したい。
                                              (月刊『時評』2021年7月号掲載)