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【時事評論】先ず隗より始めよ!

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霞が関の「働き方改革」は待ったなしだ

 今年10月、最高裁判所において、無期雇用労働者と有期雇用労働者との間の「同一労働同一賃金」の問題に関して、注目すべき二つの判断が示された。

 すなわち、13日には、有期雇用における賞与請求と退職金請求が否定された一方で、15日には、扶養手当等の各種手当や夏季・冬季休暇等に関する差について不合理であり違法との判断が示された。

 いずれも、わが国司法制度の立て付けからして、個別具体的な事例に関する判断であり、直ちに一般化はできないものの、「同一労働同一賃金」について一定の判断基準を示したものと言えよう。

 「同一労働同一賃金」とは、今年4月に施行された「改正パートタイム・有期雇用労働法」において、正規職員と非正規職員で、①業務内容・責任、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情、を考慮して不合理な待遇格差を禁止し、また①と②が同一である場合は差別的取扱いを禁止するという原則であり、政府が旗を振る「働き方改革」の重要な柱の一つだ。

 言うまでもなく、同法の定める「同一労働同一賃金」の根本には、「労働に対しては適正な対価を支払うべきだ」というシンプルな原理原則がある。

 換言すれば「これだけの労働に対して、これだけしか対価を与えないでいいのか」という問いかけを常に行うことが「働き方改革」の第一歩だ。

 そして、この問いかけへの回答は、①非合理的で過重な労働をさせないこと、②適正な対価を支払うこと、という二つに尽きる。一言で言えば、いわゆる「ブラック」であってはならないということだ。

 ここで、「働き方改革」の旗を振る政府においてこそ、最も「働き方改革」が必要だという皮肉な問題が明確になってくる。

 霞が関においては、業務量増大と定員削減のために早朝から深夜に及ぶ過重な労働が常態化し、若手職員はいくら優秀であってもコピー取りその他の雑用を延々とさせられ、幹部職員は与野党の国会議員から怒声罵声を浴びせられるといったことが「当たり前」になってしまっている。

 ある政治家が、報道番組において「公務員は奴隷ではない」という趣旨の発言をしていたが、こうした当然のことをあらためて確認しなくてはならないことが異常だ。

 他方で、いわゆる「サービス残業」はこのところ相当に改善されたようではあるが、それでも、そもそもの処遇は決して恵まれた水準にはなく、かてて加えてコロナ禍対応でがんばっても逆に賞与が減少するという非合理的な「民間準拠」主義の人事院勧告制度が存在する。

 さらに、民間企業であれば、労働基準監督署が「ブラックは許さない」と目を光らせているが、官庁は労働基準監督署の監督が及ばない。

 このような状態にある政府が、国をあげての「働き方改革」の旗を振る異常さに気が付くべきだ。

「先ず隗より始めよ」と言う。

 中国の戦国時代、郭隗という者が、燕の昭王に仕えていた。昭王から賢者の求め方を問われた隗は、「賢者を招きたければ、まず凡庸な私を重く用いよ、そうすれば自分よりすぐれた人物が自然に集まってくる」と答えたという故事に由来する(戦国策)。

 「働き方改革」の旗を振る政府においてこそ、率先して、過重で不合理な業務を改め、処遇の改善を進めるべきだ。

 いま、職場としての中央官庁は、危機的状況にある。

 最も時代に敏感な学生諸君は、国家公務員が報われる職業だとは思っていない。学生を対象とした各種インタビューやアンケート等を見れば容易に分かることであり、実際、国家公務員総合職試験の志望者数は減少傾向にある。

 優秀な学生は、霞が関とはある意味で対局にある外資系企業等を志向し、就職していっているとも聞く。

 また、内閣人事局が実施した意識調査によると(今年6月とりまとめ)、30歳未満の若手男性官僚の7人に1人が、数年内に辞職する意向であるという。

 辞職意向の理由としては「もっと魅力的な仕事に就きたい」「収入が少ない」「長時間労働で仕事と家庭の両立が困難」の三つが上位となっている。

 実際、例えば経済産業省では、若手キャリア官僚が1年間に20人以上というかつてない規模で辞職したと報じられている。

 さすがに、これほどまでの危機的状況にあれば、政府自身も認識はしているのだろうが、実効的な対策が実施されているとは言い難い。「働き方改革」のポスターを掲示することで解決できる問題ではない。

 ちなみに、すでに一人当たりGDPで日本を凌駕しているシンガポールでは、官僚を国家経営に当たる重要な職責と位置付け、その給与水準は、相対的に給料が高いプロフェッショナル6業種(金融機関、法律事務所、会計事務所、 エンジニア、外資系企業、国内企業)に準拠して決定されており、トップクラスでは年収1億円を超えている。こうした処遇を前提に、優秀な人材の民間との柔軟な行き来も可能となっている。

 わが国でも、霞が関において、合理的で働き甲斐のある適正な労働と、それに見合う処遇を早急に実現することが、待ったなしの国家的課題だ。
                                                (月刊『時評』2020年12月号掲載)