2024/11/06
財政健全化に向けた政治の責任を果たせ
今年1月28日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って編成された2020年度第三次補正予算が国会で成立した。
第三次補正予算は、「新型コロナの感染拡大防止策」、「経済構造の転換・好循環の実現」、「防災・減災・国土強靭化」を柱として、歳出規模は19兆1761億円である(ただし、2020年度の予備費等があるため、一般会計の追加歳出は15兆4271億円)。
この結果、2020年度の一般会計の歳出は、当初予算と3回にわたる補正予算により、175兆6878億円に膨らむ。
他方、2020年度の国の税収は、当初の見込みと比べて8兆円余り少ない55兆1250億円にとどまる見通しだ。
55兆円強の税収に対して、175兆円超の歳出を賄うために、赤字国債が追加発行される。
2020年度の国債の新規発行額は、112兆5539億円となり、初めて100兆円を超える。歳入の64パーセント超を国債に頼る過去最悪の状況だ。
今年1月の内閣府発表によって基礎的財政収支(プライマリーバランス)をみると、2020年度の国と地方の基礎的財政収支の赤字は
69兆円となり、昨年1月の試算から54兆円も膨らむ見通しだ。
国際通貨基金(IMF)が昨年10月に公表した各国の政府債務残高を見ると、日本は国内総生産(GDP)比で266パーセントとなっており、第2位のイタリア161パーセントを大きく引き離して先進国の中で突出したワースト・ワンとなっていたが、今般の赤字国債発行で、さらに悪化することになる。
よくぞ財政破綻の混乱を招かずにいられるものだと感心するが、一つ確かなことは「このツケはいつか誰かが払う」ということだ。
将来世代に対するツケ回しを永遠に続けて、雪だるま式に借金を増やし続けることはできない。
ツケを払う第一選択は、増税だ。
租税負担および社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の国民所得に対する比率である「国民負担率」は、44・6パーセント、うち租税負担率は26・5パーセントだ(2020年度予算ベース)。
国際的にみると、高齢化に伴い社会保障負担率は平均的な水準だが、租税負担率はまだ低いグループに属している。
わが国の財政再建に向けた道筋としては、増税が第一選択であろう。
問題は、第一選択であるべき増税が、現実的にはハードルが高いということだ。
消費税は、逆進性があるなどの主張もあり、その導入も税率アップも、政治的に多大なリソースを投入して実現してきた歴史がある。
法人税は、「企業が国を選ぶ時代」にあって、増税すれば「元も子もなくす」リスクがあるという議論が出てくる。
所得税は、累進課税制度の下で、行政サービスの給付面で所得制限をつけることが多く、これ以上の負担を求めれば、この国をリードすべき優秀な層から海外逃避していくおそれが生じている。
ことほどさように増税を図る上でのハードルは高い。
しかし、財政が悪化する一方で、増税ができないとなれば、インフレが襲ってくることになるだろう。膨大な借金という歪みをただそうとする経済的圧力は、借金の実質的な重さを軽減する方向(すなわちインフレ)に働くからだ。
世界の歴史を振り返っても、財政悪化に起因するハイパーインフレ(急激なインフレ。国際会計基準では、3年間で累積100パーセント以上の物価上昇とされる)は、決して珍しいものではない。
他ならぬ日本でも、太平洋戦争終結後、戦時中の財政悪化(政府の債務残高はGDP比で200パーセント超)に起因するハイパーインフレを経験しており、当時の政府は、預金封鎖と財産税(最高税率90パーセント)という荒業でその抑制を図った。
ハイパーインフレの歴史的反省から、各国の中央銀行はインフレファイターとして独立性を保障されている。
その例に漏れない日本銀行は、財政法第五条により、原則として国債の引き受けを禁止されている。これは、中央銀行による国債の引き受けが政府の財政節度を失わせ、悪性のインフレを引き起こすおそれがあるからだ。
しかし、実際には、「例外」として、実質的な国債引受けを日本銀行は行っており、その保有額は530兆円を超える。発行されている国債の約半分を日本銀行が保有している状況だ。
他方で、マネーサプライ(マネーストック)も、高い水準で拡大を続けており、このところ貨幣の流通速度が低下しているためにインフレとなっていないが、経済実態に合わない株高など、インフレの足音は、案外近くなっている。
言うまでもなく、急激なインフレは、国民に多大な辛苦をもたらす。財政健全化に向けた取り組みは、いかにハードルが高くとも待ったなしだ。
たとえコロナ禍の中であっても、そして選挙が近くても、歳出を抑制し、増税への道筋を明らかにして、財政健全化を図ることは、今そこにある政治の責任だ。
(月刊『時評』2021年3月号掲載)