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首長に聞く【福岡県中間市長 福田健次氏】

「中間市モデル」で財政破綻寸前からV字回復

福岡県中間市長 福田 健次(ふくだ けんじ)昭和35年生まれ、石川県出身、高知大学理学部数学科中退。「あぶない刑事」、「ゴジラ」など、アクション俳優として活動し、TNC「ももち浜ストア」では、福岡の朝の顔として17年間メインパーソナリティを務めた。平成29年より現職、二期目。
福岡県中間市長 福田 健次(ふくだ けんじ)昭和35年生まれ、石川県出身、高知大学理学部数学科中退。「あぶない刑事」、「ゴジラ」など、アクション俳優として活動し、TNC「ももち浜ストア」では、福岡の朝の顔として17年間メインパーソナリティを務めた。平成29年より現職、二期目。

2021年6月13日、福岡県中間市長選の投開票が行われた。焦点となったのは、福田氏が1期目で推し進めた、市立病院をはじめ公共施設の廃止などを含む大胆な財政再生施策についての是非だ。接戦を制して再選を果たした福田氏に話を聞いた。(本誌:重田瑞穂)

――中間(なかま)市の成り立ちからお願いします。


福田 その名の通り福岡市と北九州市のちょうど中間にあり、両政令市へ非常にアクセスしやすいまちです。かつては「炭鉱のまち」として全国で名前を知られており、石炭産業が全盛期だった明治から昭和にかけては、中間市産出の石炭が日本国をエネルギー源として支えているという自負を持ち、わずか4キロ四方の小さなまちで人口が5万人以上になるほど栄えた時代もありました。

中間市の地図
福岡県北部に位置(提供:中間市)

――初当選された当初、財政状況はどのような。


福田 4年前、市長になって市の財政を把握したとき、まるで倒産寸前の会社のようだったので愕然としました。財政構造の弾力性を表す自治体の「経常収支比率」、毎年の固定収入、つまり税収や国からの地方交付税などから、どれくらいが固定支出に使われているか、という数値です。この数値が高いと、生活費や借金返済だけで精一杯の状態だと言えますが、まさに中間市の経常収支比率は僕の就任当初はもちろん、これまで約30年もの間、常に90%以上だったのです。

――なぜそのように経常収支が傾いたのでしょう。


福田 かつて世間が、石炭から石油へとエネルギー源の軸足を移していった時代に、中間市では既存の権益構造にとらわれ、社会の変化への対応が遅れました。人口減少が進む中、新たな産業も生まれず、市は財政難に陥ったのです。
 それでも国からの助成金などを頼りに公共事業を行い市の外形を保ってきましたが、その借金がかさみ、かえって市政の足かせとなってしまいました。ツケを払うのは次代の市民です。市民の皆さんはこの実情を知らずに生活しているのではないかと心配になりました。

――本年6月に実施された市長選挙で再選されましたが、選挙を振り返ってみて、いかがでしたか。


福田 僕は今回あえて公約を掲げることはせず、市の財政状況を説明して、もう無駄遣いはできませんと言い続けました。1期目の任期中に、これまで当たり前のように使ってきた公共施設の見直しを図り、健全に経営ができていない施設は廃止も断行してきたからです。代表的なのは市立病院。これも、改めて検討委員会を開いて毎年4億円の赤字が続く状況を仔細に調べ、存続させる道も検討しましたが、最終的に出した答えは廃止でした。コロナ禍の影響で市民への説明会が開けなかったこともあって、今まで市立病院を利用していた方々から猛反対されましたし、今回の選挙期間中は批判を浴び続けました。あたかも市立病院だけしか当市には病院がないかのようなことを言う方や、誤解をした方から「みんなの命を奪うんか」と言われたこともあります。実際は、中間市内及び隣接する北九州市には他にも病院がたくさんあるし、これまで市立病院を利用していた市民は全体の1割です。僕はひたすら「市を未来に存続させるためです」と説明しました。
 一方、今回の選挙を機に新しく生まれた縁もあります。僕は選挙の直前から、SNSを利用した「ライブ配信」を始めたのですが、インターネット経由での相方向コミュニケーションによって中間市の若い世代ともじっくり話すことができました。すると、今まで選挙にまったく興味がなかったと言う若者たちが奮起して僕を応援する会を作ってくれたのです。
 選挙は接戦でしたが、当選して僕の2期目が始まると突然みんな「何ができるか楽しみだな」って言い始めました(笑)。でも、それで良いんです。

――中間市が目指すべき姿はどんなまちだと思われますか。


福田 僕が政治において一番良くないと考えているのは、高齢者のためだけのまちをつくることです。みんなが負担した税金がお年寄りのためにばかり使われていたら、若者がお年寄りと疎遠になっていくのは当然です。いわゆる少子高齢化問題の本質は、行政や政治がこれまで向いてきた方向の結果ではないでしょうか。
 市長になってからよく「人口減少にどう対策をしますか」と聞かれるのですが、僕はいつも、「今の半分、2万人のまちになっても良いですよ」と答えます。すると大抵は驚かれますが、僕は別に少子高齢化を推奨しているのではなく、人口が減ってもそのぶん一人ずつの暮らしを豊かにすれば良いと言いたいのです。日本中で子供たちが減っているのに、よそから横取りするような施策をしても、根本的な解決にはなりません。
 少子高齢化っていう言葉ばかりが前に出ていますが、まず足元で予算の使い方一つずつから見直すべきです。僕が目指している市政は、予算を高齢者のためだけのまちづくりに使うのではなく、お年寄りの皆さんから「私らより若者のためにやってあげてよ」って応援してもらえるように理解を得ること。そういうまちをつくれば若者が「じゃあ僕らがじいちゃん、ばあちゃんのこと支えるね」って言ってくれて、世代間で思いやりを交わせる地域社会になるはずです。

――若者のためのまちづくりと、財政再生は並行して進められるのでしょうか。


福田 どちらも両立できます。
 まず、中間市が財政面で窮地に陥った理由は、新たな産業を生まないまま時が過ぎてしまったことですが、これは同時に、子供たちにとって、市内で憧れるような仕事や斬新な研究がないという問題でもあります。残念なことに市内には大学がありませんので、高校を卒業した後にもっと学びたいとか、憧れの職業に就きたいとかいう若者は市外へ出ていってしまいます。
 だから僕は、市内で新しい産業を興そうと考えました。市の収入を増やすために外から経済を呼んでくることが急務でしたが、単純に企業誘致するのではなく、「夢のあるまちを作る」と提唱してきました。「夢」とは何だと思いますか?それは、子供たちです。子供たちの教育こそがまちの「夢」なんですよ。

――教育を新たな産業の軸にすると?


福田 はい、中間市はたった16平方キロの土地ですから、大規模な工場を立地する余裕はありません。中間市における産業創出とは、工場を建てることじゃなく、頭脳集団の集まりを形成することなんですよ。
 現在の中間市では、気候変動や激甚化する災害、熱中症など、さまざまな社会問題に対してアプローチするモデル地区として、民間企業と共同で実証実験を行うようになりました。将来にわたり人類が直面する課題に、このまちは最前線で挑んでいると子供たちに示すことは理想的な教育だと思いますし、新しい産業を興すことにも直結します。

――中間市をモデル地区とする実証実験への参画募集は、どのように。


福田 まず旗印として、中間市は「循環型環境システムを真剣に考えるまち」だと宣言したところ、これがきっかけとなって未来志向を持った企業や研究者から関心を寄せてもらえるようになりました。地球温暖化対策に熱心な世界中の自治体が参加する「世界気候エネルギー首長誓約」に手を挙げたことも効果的でした。この日本版が「世界首長誓約/日本」なのですが、当市の登録は日本の自治体の中で23番目と早かったんです。僕は「お友達が増える」と表現していますが、誓約を核に各分野の専門家との縁がどんどん増えています。
 集まってくれた皆さんとはそれぞれ連携協定を結んでいますが、僕はこのつながりをさらに活用するために、「中間市再生チーム」を結成してもらいました。実証実験って、実用環境に近い場所で実施するほど結果に対する信頼性が高まるでしょう?このチームでは中間市をフィールドにして、次世代の社会問題に対応する技術の実証事業を行うのです。
 そしてより多くのステークホルダーが集結できる拠点として、シェアオフィスの「ミッテ」をつくりました。

――「ミッテ」は、市が運営を?


福田 いいえ。実は「ミッテ」は民営で、これは”中間市モデル”の重要なポイントです。集まってくれた民間のパワーを生かすためには民間のまま、公的機関にしてはいけません。われわれのような、財政再生を目指す自治体にとって最も望ましくない構図は、行政の予算を使いたいだけの民間企業ばかり集まることですから。今は「ミッテ」の大きな一部屋に、民間企業が20社以上集まってくれていますが、これだけ多くの関係者が同時に入居できるのは、本社機能あるいは支局や支店を中間市に置いてもらっているからです。
 ただし、市は市として自治体機能を継続するように努力をします。すると民間は、市が公共団体であるがゆえに、一緒に実証実験を行った事実やそのエビデンスを、PRツールとして活用できる。行政は、チームに対する許可と後押しさえしてあげれば良いんです。
 「ミッテ」全体の事業規模で、「目指せ5000億」の目標を掲げています。法人税収が増える代わりに、最先端の実証実験で良い結果が出たら公共団体として惜しみなく世の中へ発信してあげることが市の役割なのです。

――行った実証実験の例を教えてください。まだ世間に普及していない新しい技術もあるのでしょうか。


福田 直近では本年7月、「新しい日常」への挑戦として、新たにウイルス感染対策に関連する3種類の技術が当市で実証を開始しました。
 1つ目は「高性能光触媒」です。光触媒を塗布しておいた面に浮遊ウイルスが触れると無害化して落ちる上、半永久的に効果が持続するのですが、光触媒は太陽光などの強い光によって反応するので、室内だと効果が薄れることが課題でした。ところが今回、九州工業大学・横野照尚博士の研究チームが新たに開発した「高性能光触媒」は、光がほとんどない暗がりでも反応できる、世界でも最先端の技術です。これは、中間市役所内のトイレを実証の場としてもらうことにしました。
 2つ目は、株式会社ProtectONEの画期的な空気清浄機「AirFuture」です。この機械はイオンを大量に放出し、室内の菌やウイルスを取り込んでタンパク質を破壊、不活性化するしくみです。
 3つ目は、迅速な菌数検査ができる計測機「バクテスター」。通常、菌検査では2日間ほどかけて菌を培養する手法をとるものですが、これは5分で室内の菌数を調べられる、株式会社HACCPジャパンの独自技術です。
 この3者と中間市とで一緒に実証開始の発表をした際、メディアに向け公開実験も行いました。1時間前から「AirFuture」を稼働させておいた市役所内の一室に移動してもらい、「バクテスター」で室内の菌数を測定してみたら、なんと減少率88.3%、1200あった菌数はわずか140へと減少し、学校給食を作る調理場と同レベルに清潔な数値が出ました。

――過去の実証実験からは、すでに実用化などの結果も出ているのでしょうか。


福田 特に災害対策分野では豊富に事例があります。例えば以前、空気から水をつくる空気製水機「AQ-200UV」(株式会社アクアム)も中間市役所に設置して実証を行いましたが、災害時にも電源さえあれば水が出るという革新的な機器です。非常時には当市で普及を強く推進している電気自動車も「移動式電源」として活用できる。実際の生活環境での実証を重ねることで、新しい技術同士を組み合わせた実用的な想定もできていくのです。
 このように「ミッテ」で行った実証実験が有効なエビデンス取得に結びつき、販売実績を伸ばしたものや、他自治体のスーパーシティ構想で連携事業者として採択されたものもあります。
 また中間市では毎年のように水害に悩まされてきました。われわれ自治体は緊急時に、気象庁のレーダーによる観測データを使って、何十分後にどう雨雲が動くかなど、地図上で降雨量が色分けされた予測図を見ています。でも、小規模自治体にとってはメッシュの範囲が広すぎるんですね。そこでこれも民間企業の協力を得て、雨量観測システムを市役所に設置しました。市役所はちょうどまちの中心に位置していますので、この1か所に設置するだけで市内全域の降雨量を10分刻みで確認できるようになりました。これで今すぐ避難せねばならないかどうか、より繊細な判断ができます。つまり土地のコンパクトさが逆にアドバンテージになったというわけです。

――自治体は、その規模が大きいほど良いというわけではないんですね。コンパクトだからできることもある、と。


福田 そのとおりです。中間市では独自に「スーパーコンパクトシティ構想」というのを掲げていますがこれは、自治体の規模に沿ったコンパクトなまちが当市の本来あるべき姿だという、シンプルな考え方です。僕が、既存の公共施設を見直し廃止を行ったのもこの一環。
 赤字の公共施設が立ち並ぶ景色から脱却して民間の知恵や資本を活用すれば、おのずと市民のニーズに合致したコンパクトで便利なまちになっていきます。今後ますます社会のデジタル化が進むと行政専用の建物すら不要になるので、いずれ行政機関は民間の施設内に入れてもらえば良いと思っていますよ。あらゆる手続きがコンビニエンスストアやスマートフォンで可能になりますから、わざわざ市役所に出向いて何時間も無駄にする必要はありません。

――今のご指摘は持続的な行政運営や市民生活の実現にもつながりますね。


福田 今や行政にも欠かせなくなったのはSDGs(持続可能な開発目標)の視点。これからは環境、社会とのバランスを保った経済成長が求められているのです。
 SDGs関連研究の第一人者である九州大学・馬奈木俊介教授も、僕の考えに賛同して声をかけてくれた方の一人です。今、中間市では馬奈木教授が中心となって、医学的見地からのデザインや建材、スマートデバイスを取り入れた「医学住宅」の実証のためにモデルルームを作っています。住むだけで健康状態を把握できて健康促進もできる家が、当市での実証実験によって全国で実用化したら…「夢」がありますよね。

――「医学住宅」は健康寿命の延伸など、高齢化社会の抱える課題解決にも役立ちそうです。


福田 予防医療には財政面でも非常に大きなメリットがありますので、市政において健康意識の醸成をかなり重視しています。この分野でも民間企業との連携を始めており、明治安田生命や大塚製薬のCSRチームと一緒に市民の健康向上や熱中症対策、発信の仕方も一緒に考えているところです。
 自宅で気軽にできる体操として考案した「青竹ふみ体操」の動画を「YouTube」で配信したり、介護予防効果があるケア・トランポリン教室を自治会ごとに開いたりといった施策も始めました。最初は、体を動かすことがおっくうだと嫌がるお年寄りもおられましたが、一度参加してみたら次が楽しみになったという声が増えています。お互いに誘い合って出かけるので地域のコミュニティ形成にも役立つという手ごたえを得ました。
 僕はそういう機会も捉えて、行政は今こうなっていますっていう情報発信の場にもしていきたいんですよ。

――福田市長は自ら積極的な発信を体現されていますが、首長による発信の重要性についてどう思われますか。


福田 トップセールスとして自治体の魅力を宣伝することは、首長の仕事として基本だと思っています。まず小さなきっかけでも取材をしてもらい、うちの市はまだまだ面白いよ、と話を広げる手法は僕にとって得意分野です。前職がタレントですし、子供番組に出演していたスーツアクターでもありましたから、そもそもトップセールスをしてやるぞと意気込んで市長になったわけです。
 いざ行政の首長になってみると、発信を通じてこれまでに築いてきた人脈が驚くほど生きてきました。何も無駄はないんだなって感じています。人とのつながりこそ財産ですね。
 どの首長さんも、「前職」があるでしょ。そこで培った経験や人脈を生かせば、それぞれ自分に向いている発信の仕方があるはずです。

――トップセールスを発揮されたエピソードをお聞かせください。


福田 2期目に入り、まず僕が発表したのは「マンホール広告事業」でした。市の管理下にあるマンホールのふたは従来、自治体が予算を割いてまちのシンボルを描くなどPRに使うことはありましたが、今回当市で始めたのは企業広告の募集で、この取り組みは所沢市に続いて全国で2番目です。“九州初”の触れ込みで売り出したら、あっという間に売れちゃいました。
 また、最近では多方面に渡って中間市に投資をしてくれる企業が増えています。例えば今、当市ではもう売地がなくなりそうなほど土地が売れて開発が始まりましたが、これまで「夢のあるまちをつくる」と売り込みを続けてきた結果、市に将来性を見出してもらえたのだと受け止めています。
 一部の市民からは「市長は何もやっとらん」って言われることもあります。冒頭でも申し上げたように中間市は大変厳しい財政難でしたので、最初の4年間で僕は予算を使わずに産業を興す工夫をしてきましたが、「予算を使うのが首長の仕事」という古い常識の範疇で考えれば、確かに「何もしていない」1期目だったかもしれません。

マンホール広告事業の開始を発表
マンホール広告事業を発表(提供:中間市)

――市長としての仕事を続ける原動力は何でしょうか?


福田 「面白い」っていう感覚に忠実であることですね。われわれの社会を賄っている税金の一部を、未来に有効活用するために戦うのが政治家の仕事の醍醐味だと僕は思っています。
 そうそう、いつか中間市を舞台にした映画をつくりたいという僕の「夢」もあります。例えばある日突然、タレントだった男がやってきて市長になり、そこで人間関係が生まれていって、とんでもなく面白いまちになってしまう。そんなストーリーはどうでしょう、面白いと思いませんか。

――では、肝心の財政再建は今、どのような状況でしょう。


福田 実は、市の財政はV字回復しつつあります。1期目の施策が結実し、冒頭の経常収支比率ですが、ここ数年は95%を超えていたものが次に発表する数値ではなんと86.2%まで改善する見込みです。さらに、令和元年度末では残高わずか1億3千万円まで減少していた財政調整基金は、令和2年度に13億円以上も積み立てることができました。
 要は、市の自由な目的で使えるお金が増えてきたわけですが、これはまさしく未来の若者たちの「夢」のために使うと決めています。

(本記事は、月刊『時評』2021年9月号掲載の記事をベースにしております)