2023/09/06
――「営業」として最前線に立っていると、頭を悩まされることも多いのでは。
八木 特定の事業者との活動が本当に行政の仕事かと疑問を投げかけられることもありましたし、縦割り組織の慣習を乗り越えるまでは大変でした。事業者が困っていることの多くは役所の組織図にはまらないので、「うちの所管じゃない」とか、できない理由を言うとそこで話が終わってしまうんですよ。「営業本部」では“ソリューション”と呼んでいますが、どうやったら解決するか、を考えながら事業者と一緒に動きます。
知事からも以前「営業やったことないから困るやろ」と聞かれましたが、実は、現場では困ることより嬉しいことが多い。デパートで愛媛物産展を開催してもらう際など、現場へ行ってお客さんとも話しますが、「美味しい」って喜ばれるとすぐ生産者さんに教えてあげたくなります。県内で一生懸命作られたものを消費者に届けて、その生の声を聞けるって、本当に嬉しいことです。
ソリューションを考えるやり方は、行政にこそ適しているかもしれません。公務員はいわば究極のサービス業だと思いますから。
――東京事務所で最近力を入れている施策はありますか。
八木 参加申し込みもウェブ上でできるオンライン移住説明会「えひめ移住ファーストステップセミナー」が好評で毎回数十名が集まるので、おおむね月に一度くらいの頻度で開催しています。職員が出身地域の良さをPRしたり、実際に移住された方の話を伺ったりしながら回を重ね、現実的な移住相談に繋がるなどの結果も出てきました。愛媛に住む魅力として、近所で自然に助け合うような開放的で温かい地域性や、素晴らしい風土の様子も、体験談を通じて伝わって欲しいと思います。例えば、晴れた日に眺める島しょ部なんて絵画みたいに美しいのですが、旅行で訪れた際にその景色に惚れ込んで、移住してレモン農家になったという方もいました。
今後は「ワーケーション」の誘致にも力を入れていきます。都会に活動本拠地がある方に、リモートワークをしながら一定期間滞在する先として愛媛を選んでもらいたい。都内の企業に対し、オフィス単位で1ヶ月、愛媛で会議をしてみませんかなどといった働きかけも試みています。
――いわゆる「新しい日常」にも目を向けられているのですね。
八木 所内では、感染対策を講じながらもごく少人数ずつでの会合など、対話できる場を作ってきました。最近では、職員を一度に1人ずつランチへ誘い、困っていることを尋ねたり、ねぎらいの言葉をかけたりしています。
今、コロナ禍でつらい思いをされている方が多いですよね。手が回らないことをあげつらうのではなく、「足らんのやったら、こっちはうちがやってあげるけん」と考えるのがうちの「営業本部」流。お互いに助け合うことを、自治体でも国全体でも広げていけば今の困難も乗り越えられるはずだと期待しています。
(本記事は『時評』2021年6月号掲載の記事をベースにしております)