2021/08/23
広島県呉市は、フレイル(虚弱高齢者)対策の一つとして、同市公式のキャラクター「呉氏(くれし)」を活用したダンス性の高いトレーニング動画「君くれハート くれトレバージョン」を制作し、YouTubeに公開した。コロナ禍でも高齢者に自宅で楽しく体を動かしてもらうのが狙い。
「呉氏」は、市の広報戦略の一環で2017年に誕生。当初、手足がひょろりと長く、地名がそのまま顔のデザインになっている姿に「果たして、ゆるキャラとして人気が出るのか」と疑問視する声もあったという。ところが、ダンスグループTRFのヒット曲「CRAZY GONNA CRAZY」を替え歌にしたYouTube動画で、「呉氏」がキレ良く踊る姿がネット上で話題になり、実に74万回再生されるヒットになった。この“実績″をきっかけに、「呉氏」のダンス動画コンテンツは、YouTubeに次々と追加。また、市内外のさまざまなイベントでのライブパフォ―マンスなど地道な活動を通じて、「呉氏」の知名度は徐々に浸透し、今では、若い市民を中心に人気キャラとして定着した。
今回、制作されたフレイル対策トレーニング用の動画「君くれハート くれトレバージョン」には、「呉氏」のほか70~79歳の高齢者男女4人で結成された「呉氏レジェンド」が出演している。メンバー全員がダンス未経験者で、視聴する多くの高齢者に「自分もできるかもしれない」と共感してもらえることをコンセプトに、市内の健康運動指導士に監修してもらって仕上げた。
YouTubeでの公開後、現在(2021年2月時点)までに7,000回以上再生され、DVD版を市内デイサービスなどの施設を対象に600枚程配布。市内外の自治会や介護施設、病院などからも「活用してみたい」と概ね好意的な反応が寄せられている。
フレイルは、年齢を重ねるとともに筋力や認知機能が低下して要介護の危険性が高まる状態を意味する。近年、厚生労働省がフレイル対策を推進し、全国地方自治体や民間施設でも積極的に取り上げられている。昨年からの新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛によって、フレイル予備軍が急増しているのではないかと危惧されている。
同市の高齢化率は、15万人以上の都市においては全国2位となる34.5%(出典:2017年住民基本台帳)に上る。これまでの同市の介護予防施策は、「できるだけ外出を促して、地域で交流を行うことで元気に過ごしてもらう」方針を立ててきたが、2020年4月に国によって発令された「緊急事態宣言」を受け、市内の介護予防教室や運動サークル、高齢者交流サロンなどが一斉に中止に。宣言解除後も再開されていないところもある。同市が緊急実施した生活調査結果によると、「高齢者がコロナ禍に対する不安によって家に閉じこもり、社会的つながりが絶ち切られつつある傾向」が見え、フレイルの進行加速の課題が浮き彫りになっていた。
同市は「フレイル予防の取り組みは、高齢者自身の力も発揮してもらい、地域にも協力してもらって進めていかなければならない。コロナ禍収束の兆しが見えない不安な先行きを見据え、今後も『呉氏』を積極活用して高齢者の運動促進に知恵を絞りたい」としている。
(本記事は、月刊『時評』2021年3月号掲載の記事をベースにしております)