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本誌独断2020年夏の霞が関人事予測

厚生労働省

鈴木次官の去就不透明 新型コロナ対応で後任も旧厚生から?

 新型コロナウイルスをめぐる対応の最前線に立つ厚生労働省。幹部人事に不透明感が漂う中、7月で就任から2年を迎える旧厚生省出身の鈴木俊彦事務次官(58年、東大法)の去就が注目される。勇退の可能性が高いとの観測が強いが、続投して引き続き新型コロナへの対応を担うのではないかとの見方も一部に出ている。

 鈴木次官が交代する場合も、「新型コロナに力を注ぐ姿勢を解くわけにはいかない」(関係者)として、後任は旧厚生から出るとの見方が強い。吉田学医政局長(59年、京大法)が有力視され、濵谷浩樹保険局長(60年、東大法)も候補の一人だ。

 鈴木次官の同期で、かねて次官候補と言われてきた樽見英樹氏(58年、東大法)は、3月に内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長に就任。引き続き内閣官房で対応を担うとみられる。

 旧厚生系では、新型コロナを踏まえた医療体制の在り方が今後の政策課題になると見込まれ、医療関係部局の局長人事がポイントになる。鈴木次官が仮に続投なら、吉田医政局長、濵谷保険局長ともに留任する可能性がある。吉田氏が次官に就くケースでは、医政局総務課長の経験があり、首相官邸からの信任も厚い土生栄二官房長(61年、東大法)の起用を予想する向きがある。

 他の局長では大島一博老健局長(東大法)、高橋俊之年金局長(東大法)、伊原和人政策統括官(東大法)ら「人材豊富」とされる62年組の処遇が焦点。介護や年金の制度改正が通常国会で一段落することから、渡辺由美子子ども家庭局長(63年、東大文)を含め、局長ポストの中での横滑りが取り沙汰されている。

 局長への昇格では、八神敦雄官房審議官=医療介護連携、データヘルス改革担当(62年、東大法)や橋本泰宏障害保健福祉部長(62年、東大法)らが候補か。高橋年金局長が異動する場合、度山徹官房審議官=年金担当(63年、東大法)の局長登用も考えられる。

 旧労働系で、土屋喜久厚生労働審議官(60年、東大法)は留任との見方がある。土屋氏が交代なら坂口卓労働基準局長(60年、大阪大法)が有力候補だ。局長クラスでは、小林洋司職業安定局長(61年、一橋大法)の他、田中誠二総括審議官(京大法)、達谷窟庸野高齢・障害者雇用開発審議官(東大法)ら62年組の昇格が予想されている。

 医系技官の次官級である鈴木康裕医務技監(59年、慶大医)は就任から3年を迎え勇退の可能性があるが、鈴木次官と同様、新型コロナへの対応を抱えることから続投説がある。

 勇退なら、後任には宮嵜雅則健康局長(62年、慶大医)が昇格か。宮嵜氏の後任には、国際担当の佐原康之総括審議官(平成3年、金沢大医)や医政などを担当する迫井正深官房審議官(平成4年、東大医)らの名前が挙がる。

 医系技官では、危機管理担当の大坪寛子官房審議官(平成20年、慈恵医大医)の去就も注目される。局長級への昇格の可能性もあるが、和泉洋人首相補佐官の海外出張に同行した際、「コネクティングルーム」に宿泊したことが不適切と国会で批判を浴びたことなどを考えると、引き続き審議官級ポストにとどまるとみられる。

農林水産省

次官後任は候補2人の争い 水産庁からダークホースの説も

 農林水産省の幹部人事は、勇退が濃厚とされる末松広行事務次官(58年、東大法)の後任が最大の焦点だ。目下、枝元真徹官房長(59年、東大法)が最有力との見方が多いが、同期の水田正和生産局長(59年、東大法)の名前も取りざたされる。 

 末松次官は奥原正明前次官(54年、東大法)からの農政改革路線を引き継ぐとともに、農林水産物・食品の輸出拡大を推し進めた。7月で就任からちょうど2年経つのを機に交代するのが通例だ。

 枝元官房長は、直前の生産局長時代から畜産農家への支援拡充に奔走。海外で人気が高く、輸出の主力品目である和牛の増産を進める一方、受精卵など和牛の遺伝資源の海外持ち出しを封じる家畜遺伝資源不正競争防止法の成立にも尽力した。鹿児島弁のおっとりとした口調と同様、人当たりのよさが強みで、宮崎県が地盤の江藤拓農水相からの信頼も厚いようだ。

 水田生産局長は、「人の意見を聞くのがうまい」(若手職員)。ただし、生産局以外の局での経験が乏しいとの指摘もある。

 ふたりの同期には、次官級の大澤誠農林水産審議官(59年、東大法)がいる。「ずば抜けて頭がいい」「フランス語で物事を考えている」(幹部)と能力はお墨付き。ただ、農水審から次官になる例はほとんどなく、引き続き国際交渉に当たるとみられる。

 一方で、山口英彰水産庁長官(60年、東大法)が1年飛び越えて次官に就くのではとの声もある。事務処理能力が高いとの評価がある上、水産・林野庁の両長官は、次官就任の待機ポストとされてきたためだ。ただ、そうなると59年組の処遇が行き詰まることから、現実味は薄いかもしれない。

 本郷浩二林野庁長官(57年、京大農)は技官で現場の実務に詳しい。続投を望む声が多いが、年次の高さを考慮し、退任する可能性も。

 農水省では奥原前次官時代、農政改革の実行に異を唱えた幹部がことごとく排除されたとされる。そのため「尋常ならざる人材不足」(農水省OB)。本郷長官の後任に、前林野庁長官だった牧元幸司農村振興局長(60年、東大法)の名が取り沙汰されるのもそのためだ。実現すれば牧元農村振興局長は、長官から局長へという降格、そして長官再登板という、異例づくめの経歴となる。

 枝元官房長ら59年組が昇格・退任した場合、空席候補に名が挙がるのは、61年組の天羽隆政策統括官(東大法)、横山紳経営局長(東大法)ら。次世代のホープとの呼び声も高い渡邊毅畜産部長(63年、東大法)の局長昇格も可能性がある。

 ただ、末松次官が続投する線はまだくすぶっており、仮にそうなった場合は全体的に小幅な人事になりそうだ。

 いずれにせよ、5兆円の目標に向かって農林水産物・食品の輸出の拡大を進める塩川白良食料産業局長(59年、東大農)、家畜伝染病、豚熱(CSF)制圧の途上にある新井ゆたか消費・安全局長(62年、東大法)は留任するとの見方が多い。

経済産業省

経済回復の正念場、「V字回復」に向け 期待される強靭な組織力の創造

 新型コロナウイルス感染再燃への懸念は消えない上、経済の「思い切ったV字回復」に向けた対策はこれから正念場を迎える。そのため例年に比べて幹部人事は小規模に留まるとの見方が強い中、この有事を乗り切るために安藤久佳事務次官(58年、東大法)を中心にした、中長期を見据えた組織力強化の人事が求められることになる。安藤氏が次官に就任したのは昨年7月。経産省の次官の任期は経済対策の重要性から歴代2年となっていることも続投との見方を後押しする。

 安藤次官が続投となれば、同じ昨年7月に就任した田中繁広経済産業審議官(60年、東大法)も続投となる公算が大きい。安藤氏よりも入省年次が二つ下であるほか、こちらも特段の事情がない限り、任期は事実上2年だからだ。

 ただ、特段の事情が生じる可能性もある。新原浩朗経済産業政策局長(59年、東大経)の存在だ。今井尚哉首相補佐官(57年、東大法)をはじめ首相官邸の覚えがめでたく、今年3月に定年延長して間もない。定年延長は、筆頭とはいえ局長としては極めて異例だ。

 問題は、新原氏はその優秀さが仇となってか、意に介さない政策立案手法など省内外から良い噂はあまり聞こえてこない。「この非常事態下で組織をまとめるのは厳しい」と断言する関係者も多い。

 もっとも、新原氏は18年7月の産政局長就任から丸2年を迎える。3年目に突入という可能性も囁かれる一方、内閣官房や内閣府への転出の可能性もゼロではないが、現実味は乏しい。

 とはいえ、万が一の事情として、田中経産審が勇退して、後任に新原氏が就くという可能性がにわかに浮上した場合、新原氏の後任は西山圭太商務情報政策局長(60年、東大法)が有力といえそうだ。内閣府の多田明弘政策統括官(経済財政運営担当)(61年、東大法)を呼び戻す可能性もある。

 一方、18年7月に就任した髙橋泰三資源エネルギー庁長官(60年、東大法)は3年目に突入する公算もある。幹部の金品授受問題に揺れた関西電力のガバナンス立て直しをはじめエネルギー関係は原発再稼働対策など、課題が山積している。

 他方、糟谷敏秀官房長(59年、東大法)の処遇をどうするかという問題が残る。産業革新投資機構をめぐる騒動はあったが、糟谷氏は人望の厚さから、次官就任を待望する省内の声もある。また、甘利明自民党税制調査会会長との親密な関係も知られる。官房長3年目に突入となるのか、次官へのステップとして、髙橋氏のエネ庁長官勇退、後任就任につながるのかが注目される。

 前田泰宏中小企業庁長官(63年、東大法)は就任1年目であり、新型コロナウイルスの影響で経営困難となっている小規模企業対策が焦眉の急ということもあり続投が有力視されている。

国土交通省

由木氏と栗田氏の一騎打ちか 旧運輸の2枠と田端長官の関係も焦点

 通常国会明けに予想される幹部人事では、旧運輸事務出身の藤田耕三事務次官(57年、東大法)が勇退する場合、旧建設事務出身者から選ばれる公算が大きい。後任には、ともに次官級の国土交通審議官である由木文彦氏(58年、東大法)と栗田卓也氏(59年、京大法)が有力候補とされる。

 過去2年の人事では「旧建設技術、旧運輸事務」の順に次官が起用された。それに倣えば、今回は旧建設事務出身者が対象となる見通し。由木、栗田両氏とも内閣官房の要職や本省の枢要ポストを歴任している。省内外からの評価も高く「どちらがなってもおかしくない」とみられている。

 一方、復興庁に目を転じると、末宗徹郎現次官(58年、旧自治、東大法)は総務省出身。同庁では同省と国交省の出身者が次官を分け合うことが多い。このため、仮に末宗氏が退官するならば、由木、栗田両氏のうち、一人が国交次官、もう一人が復興次官として処遇されるとの予想もある。

 旧建設事務から次官が誕生する場合、国交審は「旧運輸2、旧建設1」の配分になる見通し。現国交審の由木、栗田両氏が交代ならば、旧建設の1枠には野村正史官房長(60年、東大法)の昇格が順当と目される。

 焦点の一つは、旧運輸の2枠と、就任2年を迎える田端浩観光庁長官(56年、東大法)の処遇との関係だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって日本経済は大打撃を受けており、感染終息を見据えた観光振興は、早期の景気回復を目指す安倍政権にとって重要施策となる。年次バランスから田端氏には勇退説もあり、その場合、後任には蒲生篤実総合政策局長(60年、東大法)が有力との観測が浮上している。

 一方で、藤井直樹国交審(58年、東大法)の名を挙げる声もあるが、藤井氏は旧運輸出身の次官候補として続投を望む強い声が多い。そこで、もう一人の国交審には岡西康博国際統括官(61年、京大法)らの昇格が考えられる。

 技術系トップの山田邦博技監(59年、旧建設、東大院工)は続投との見方がある。仮に勇退する場合には、池田豊人道路局長(61年、旧建設、東大院)、五道仁実水管理・国土保全局長(61年、旧建設、京大院工)らが後任候補となる。

 旧建設から次官が誕生する場合、官房長は旧運輸、総合政策局長は旧建設の出身者になると見込まれ、このうち、官房長には水嶋智鉄道局長(61年、東大法)が有力、水嶋氏が仮に留任の場合は、一見勝之自動車局長(61年、東大法)らが候補となる。

 総合政策局長は石田優復興庁統括官(61年、東大法)や青木由行土地・建設産業局長(61年、東大法)らの起用が想定されるが、青木氏には続投を望む声もある。

 就任2年の池田道路局長には交代説もあり、後任には吉岡幹夫北陸地方整備局長(61年、旧建設、東大工)や石原康弘関東地方整備局長(62年、旧建設、九大院)らの名前が挙がっている。

環境省

事務次官、続投の公算大 パワーバランスを鑑み発言力低下を回避か

 今年度の環境省の重要課題は、1月に本格的な運用が始まった地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」に基づき、温室効果ガスの大幅排出削減の道筋を確実につけることだ。日本は、今後10年間で、2013年比で26%減という目標を掲げる。世界に比べて再生可能エネルギーの導入が進まず、石炭火力に頼る構図を変えるため、政府内で発言力を強める必要がある。また、官邸や経済界が進める石炭火力技術の輸出には、世界から厳しい目が向けられており、こうした政策を転換する上でも、環境省がイニシアチブを握れるような布陣が求められている。

 今年の人事の最大の注目点は、昨年7月に官房長から就任した、鎌形浩史事務次官(59年、東大経)が続投するか否かだ。今のところ、続投の公算が大きい。そこには、鎌形氏が他省庁の事務次官に比べ、年次が若いという背景がある。温暖化対策で重要局面にある環境省において、対経済産業省など、事務次官の発言力は必要不可欠だ。鎌形氏が退任し、さらに若い事務次官が誕生したとき、年次のパワーバランスから、発言力の低下するような事態は避ける必要がある。

 また、環境省プロパー(事務系)が、鎌形氏の後ろには上田康治官房審議官(平成元年、東大経)までいないという事情もある。過去、環境庁から歩み出した環境省は、プロパーの事務次官誕生が悲願と言われた時代が長かった。それだけに、職員の士気を維持するという意味でも、プロパーの事務次官の続投が望ましいと言えるのだ。続投の場合には、局長級以上がほとんど変わらない小幅人事となる。今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で政府全体の人事も小幅と言われており、環境省も同様になりそうだ。

 小幅ながら、山本昌宏環境再生・資源循環局長(60年、厚生省、京大工)や、鳥居敏男自然環境局長(59年、京大農)らは勇退の可能性がある。

 一方、仮に鎌形氏が退任すると、後任には、中井徳太郎総合環境政策統括官(60年、大蔵省、東大法)が有力だ。税制に精通しており、二酸化炭素の排出量に応じて課税などをする、炭素の価格付け(カーボンプライシング)導入に向けて尽力しており、実現に期待がかかる。この場合、後任の総合環境政策統括官には、正田寛官房長(61年、建設省、東大法)や、近藤智洋地球環境局長(62年、通産省、東大法)らの名前が挙がる。他省庁との調整などで、大臣や事務次官折衝の露払い役として重要なポストである官房長の後任には、上田氏というのが順当な見立てとなる。

 一方、昨年7月に就任した、次官級ポストの森下哲地球環境審議官(61年、東大院工)は、鎌形氏が留任した場合にも、中井氏が事務次官になった場合にも、続投の見通しだ。国際交渉の経験豊かで、パリ協定が重要な局面にある中で、他に適任者がいないとの事情がある。

防衛省

後任候補・島田氏は官邸の信頼厚く 層が厚い同期60年組

 新型コロナウイルス感染拡大による未曾有の緊急事態に防衛省・自衛隊も各種支援活動に奔走している。感染防止のため、実任務や訓練にも支障が出ている状態だが、中国軍の活動は引き続き活発で、北朝鮮の動向も不透明感が強まっている。今夏以降、在日米軍駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」をめぐる日米交渉や、空自F2戦闘機の後継機開発の方針決定などさらなる難題も待ち構える。

 今夏で就任2年となる髙橋憲一事務次官(58年、早大法)は交代説が濃厚だ。有事法制に明るく、米軍普天間飛行場の辺野古移設工事の対応などでも、菅義偉官房長官ら首相官邸から評価が高かった。

 後任の最有力は島田和久官房長(60年、慶大法)。調査課長、防衛計画課長、防衛政策課長など中枢を歩み、2012年12月の第2次安倍政権発足と同時に地方協力局次長から首相秘書官へ。その後、6年半あまりの長期にわたり秘書官を務め、19年7月に官房長として本省に復帰した。

 官邸からの信頼は言うまでもない。島田秘書官と言えば、19年1月14日にモスクワで行われた日露外相会談に同席し話題になった。外相会談に首相側近が参加するのは異例だ。安倍首相としては、北方領土をめぐる重要な日露交渉に、信頼する秘書官を派遣し相手方の雰囲気を直接探る狙いがあったとみられる。

 島田氏は有事法制に精通することでも知られる。髙橋次官らとの共著で「日本の防衛法制」という解説書も出版。集団的自衛権の一部行使容認を含む安全保障関連法制でも調整役に奔走した。人柄も温厚で早くから「エース」と目され、満を持しての登板となる。

 防衛政策局長を経験していないが、髙橋次官も官房長から次官に就任した。そもそも「部隊運用まで指図する官邸に長年にいたんだからなんら問題ない」(防衛省幹部)と言う声も。

 島田氏の同期は層が厚い。武田博史防衛装備庁長官(慶大法)、槌道明宏防衛政策局長(東大法)、中村吉利地方協力局長(北大経)、鈴木敦夫整備計画局長(早大政経)。5局長のうち、人事教育局長を除く4局長を昭和60年組が占める。

 これまでは主要な安全保障政策を担う防衛政策局長から次官に就くルートが多かったが、槌道氏は秋田へのイージス・アショア配備計画で大きくつまずいた。防衛省は配備先として秋田県の陸自新屋演習場を選定したが、地元への説明資料のミスが相次ぎ再調査に追い込まれた。アショアは、弾道ミサイル防衛を所管する防衛政策局が主導。「なぜ地元対策が専門の地方協力局がやらなかったのか…」といぶかる声も省内に広がった。

 19年7月の参院選では、秋田選挙区で自民党候補が落選。アショア問題の影響が最大の敗因として挙げられ、与党内には槌道氏の更迭論さえ浮上した。髙橋次官と同期で残っていた前田哲内閣官房副長官補(東大法)も今夏の勇退が見込まれるため、槌道氏は市ケ谷を離れ後任の副長官補におさまるのではないかと取り沙汰されている。髙橋、前田両氏が退職すれば、玉突きで土本英樹審議官(61年、京大経)らが局長に昇格すると見られている。