このレポートは、2019年11月28日、虎ノ門政策研究会で行われた講演をもとに時評社が編集しています。
患者視点で各種データを有効活用
2019年5月、厚生労働大臣の下で「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」を立ち上げ、議論が展開されました。そこで示された方向性は、40年を展望すると、高齢者人口の伸びは落ち着くものの、担い手である現役世代が急減するため、「総就業者数の増加」と「より少ない人手でも回る医療・福祉の現場を実現」することが必要というものです。このため、医療・福祉サービス改革を主要な政策課題の一つに位置付け、例えば40年時点で単位時間当たりのサービス提供を5%(医師は7%)以上改善するという目標を掲げました。その実現に向け、「ロボット・AI・ICT等の実用化推進、データヘルス改革」を含む4つのアプローチによって施策の推進を図っていくこととしております。
このうち、なぜデータヘルス改革が主要アプローチの中に組み込まれたのか。これまでは健康、医療、介護各分野のデータが、官にも民にもそれぞれ分散して相互に十分つながっていなかったため、ビッグデータとしてはもちろん、患者個人のデータとしても、必ずしも有効に活用されていませんでした。健康・医療・介護分野のデータの有機的連結やICTをはじめ技術革新の利活用の推進を図る。これによって、現場や産官学の力を引き出し、健康寿命の延伸やよりよい医療などサービスにつなげることで、患者・国民がメリットを実感できる形にしていくことが、データヘルス改革の目的と意義になります。厚生労働省では、15年ごろから本格的な議論を開始し、17年4月に厚生労働大臣を本部長とするデータヘルス改革推進本部を立ち上げました。同年7月には「データヘルス改革推進計画」を策定し、厚生労働省として初めて政策パッケージとして発表するに至りました。その中では、「保健医療記録共有」「緊急時医療情報共有」「PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)・健康スコアリング」「データヘルス分析」「乳幼児期・学童期の健康情報」「科学的介護データ提供」「がんゲノム」「AI」の8つのサービスについて、20年度からの開始を目指すこととされました。
さらに、21年度以降の取り組みを明らかにするため、19年9月に新たな政策を策定しました。この中では、個人情報保護やセキュリティ対策の徹底、費用対効果の視点なども踏まえつつ、「ゲノム医療・AI活用の推進」、「自身のデータを日常生活改善等につなげるPHRの推進」、「医療・介護現場の情報活用の推進」「データベースの効果的な利活用の促進」の4分野を柱として政策を推進することとし、それぞれ〝2021年度以降に目指す未来〟像を掲げ、25年度までの計画・工程表を策定しました。この計画の内容は、今年の骨太の方針や成長戦略にも盛り込まれており、政府全体の方針と言えるでしょう。
ゲノム医療の推進
〝目指す未来〟達成に向けた主要4分野の工程表を見ていきます。
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